fugaku1115kunのブログ

オリジナルストーリー小説

Des pousses dans le jardin de mon père.

Episode 1 Mon jardin.

 

(イピゾ・アン 私の庭)

 

 

Dans les jardins d'mon père Les lilas sont fleuris

 

Dans les jardins d'mon père Les lilas sont fleuris

 

Tous les oiseaux du monde Viennent y faire leurs nids

 

Auprès de ma blonde Qu'il fait bon, fait bon, fait bon

 

Auprès de ma blonde Qu'il fait bon dormir.

 

晴れた日の朝にはForêt bleue(青い森)が南に見えるけど、残念ながらフランス語で言ってもどんな場所かは変わらない。

 

つまり…ここは北の地方の南の海側に位置する。

 

Alphabet(アルファベ)での頭文字はH(アシュ)市だ。

 

もしも自分が小説家ならこう言う風に書き出そうと思う。

 

だって、それは私の物語を始めたいから…!

 

私はマキ!どこにでもいる16才の女の子だ!

 

あぁ、気持ちの良い朝!

 

ここはいつもの海沿いの坂道の通学路だ。

 

私達、聖(サン)エルモ学園の生徒は、ブロンズ(青銅色)のワンピースチュニックを纏い、片手にはぺったらこい…じゃなかった! 

 

薄いレザーの鞄を持って、足元は所謂ちゃんとした靴、革靴でモノクロ映画から飛び出して来たようなアンティークなスタイル。

 

そして、この坂を上って行き着いた所が校舎だ。

 

学校の名前の聖エルモはトルコの航海の聖人で、聖エルモの火と言う夜に船が静電気で光る現象でその名前を知る人もいる。

 

女子校でミッションスクールだけど、お嬢様ばかりの乙女の園と言うよりは女子少年院みたい。

 

昔は寺子屋のように町の人たちに読み書きを教えたりもしたとか、海外には男子部があって船乗りの専門教育を受けられるそうだ。

 

この木造でアルケイック(古風)な校舎は趣があるけど、夜はオバケが出そう!港町にありそうな古い洋館を、もうすこし大きくしたような感じと言えば解りやすいだろうか。

 

古い!だけど、とてもア”ンタナショナルで良くも悪くも欧風で、全校生徒は少なくて全学年一クラスずつだけ、でも海外の大学の受験ための勉強もできる。

 

先生にはマ・スールもいる、他の町では教会のシスターと呼ぶらしい。

 

みんな授業の時には紙と万年筆を使う、それはフランス式らしい。

 

部活動はスポーツ、美術、音楽の三つと大雑把に分けられていて休み時間に本気で油絵を描いたり、チェロを弾く人もいれば、外国語の聖歌の本格的なのが聞こえて来たり、中庭でバレエダンスをやってる人もいたりする。

 

 その他同好会も一応あって、陰ながら演劇部も存在している。

 

そもそも生徒が少ないので、だれがどこの部に所属しているのかが、あいまいでいくつも掛け持ちしている人もいるとか…。

 

思い返せば十五の春、私は高校入試で志望校に落ち、滑り止めにも落ちちゃって、ほんのちょっとだけ非行に走った。

 

いやっ…未遂だ!

 

非行に走りそうになった私は、母に迫られて、少年院にいくか、親戚が用務員を務めていた、聖エルモ学園に通うかどうかを選ぶ羽目になったわけだ。

 

 

「ボンジュール!おはよう!みんな!。」と、2-A(ドゥ、ア)の教室に入ると

 

ボンジュール マキ!サリュ!マキ!おはよう!おはよう!とうるさいくらい返事が来る。

 

二十六人のクラスメイト達は国際色豊かでフランス系、ベルギー系、セネガル系もいてジャポネーゼの方が少ないくらいだ。

 

「神宮祭、もうすぐだね。」

 

と椅子に座ろうとする私に声をかけてくれたのは、ショートヘアが似合いすぎるボーイッシュな朱子ことアキだ。

 

そうか、もう夏なんだな。

 

ここだけの話、私はこの人の事が気になっている、今まで誰にも話したことはない。

 

アキコと呼ばれるとちょっと拗ねる、昭和っぽいから嫌ならしい…かわいいのに、あきこって。

 

そしてジャポネーゼといえばもう一人いて、その橋本さんが早足で歩み寄って来た。

 

なぜか彼女はクラスで唯一名字で呼ばれていて、ロングへアーで眼鏡をかけているクールな感じの美人だ。

 

彼女は息を吸い込んで言った。

 

「おはようございます!マキさん。最近の総理の言動をどう思われますか?今度じっくりとお互いの意見を交わしましょう。」 

 

私はごめんなさい、わかりません!と首を横に振った。

 

 クラスメイツはゲーム機をテレビに繋いでカラオケをしていたり、マラカスの様な楽器を振り回したりして賑やかに過ごしていた。

 

ああモン・ペール!(私のお父さん、神様)今日もみんな良い意味でおバカさんに見えます!

 

それでいてなぜか、ああなぜか!、元から出来がいいのか、授業中は真剣な態度なのです。

 

もしもなにか理由があってマ・スールに注意されることがあっても、その瞬間にどんなにはしゃいでる子も大人しくなるのです。

 

 

そして間もなく定年間近のおじいちゃん先生、担任の池澤神父さまがやってきてホームルームが始まった。

 

「諸君、ボンジュール!はい、主の平安がありますように…!出席を取りますか。」

 

ーーアキ…うぃっす

 

ーークロエ…ウィ!

 

ーーエステル…ウィ!

 

出席の返事はウィでここではほとんど全部がフランス式と言う事わけで、慣れていてもこの不思議な世界は私に沢山の小さな笑いをあたえてくれる。

 

授業はフランス語、カテケージス(カトリックの教え)が毎日ある事を除けば普通の学校と変わらないと思う。

 

 

その日の放課後、クラスのミドリは変なことを口にした。

 

『マキ知ってる?最近、H(アシュ)市にでるらしいんだ』

 

え...出るってなんだ?お化けだろうかと聞き返すように私はミドリの顔を見たら、彼女は声を抑えて答えた。

 

『言葉にすると本当にちょっと変なんだけどさ・・・怪人』

 

怪人!不審者よりも激しい表現に驚き、私はミドリに聞き返した。

 

『えっ、怪人?どんな怪人??』

 

ミドリは答えた。 

 

『それは真っ黒い影のような姿をしていて…出会った人はまるで気力がなくなってしまうんだって…』

 

とても信じられる話ではない。

 

恐怖と寒気を感じたけれど、夕日が傾いて来たので、家に帰ることにした。

 

嫌な予感を胸に…。

 

 

数日後、帰り道《そいつ》は現れた。

 

住宅街に面した表通りでフッ、と(黒い影)が現れた!

 

なんと例えたら良いだろう、あれはそこだけ(夜)になってる… 影に近い色合いで動物のように動き回っている(夜)だ。

 

私はなぜか本能的に、あれを夜のようだ、いや、夜そのものと感じている。

 

あの(夜)、影は2メートルくらいの大きさがある。

 

深呼吸してそれを落ち着いて見ると、(夜)は車道を越えた反対側の歩道であたりを何周も、飛んだり歩き回ったりするように動いていた。

 

それはカラスが跳ねるようなテンポだった。

 

思わず驚きの言葉が口から洩れた。

 

 「え、え!?なんだ…。」

 

 何かよくわからない(現象)が目の前にある。

自分の目か頭が変になっているかもしれない、日々の小さなストレスのせいだろうか...。

 

カメラ!そう、あれが私の目に移る幻ならカメラには移らないかもしれない!

世の中には心霊写真なんてものがあるらしい...撮影してみよう。

 

「…撮れるかな。」

 

スマホのカメラで連続撮影しても確かに(夜)は写った。

 

肉眼で見るよりも、黒く黒く、闇のように映っていた。

 

怖いよ!怖いって…。

 

その時、視界に人の影が!

 

曲がり角から人影が見えた、確かに誰か来る。

 

デシャヴ!あれは…アキ?アキだ!間違いない、戸惑う私の前にアキが現れた。

 

アキは浴衣姿だった。

 

白地に雲隠れの月の模様で、それがとてもよく似合っている!なんともトレビアン!

 

何か忘れてる...私はなにか忘れている…いけない!お祭りって今日だった!

 

それよりも今はあの(夜)だ!

 

「みて、あそこ…変じゃない?。」

 

と私はアキに駆け寄り、ささやく声で言った。

 

アキはショートの髪を風になびかせて、表情を変えず黒い影を見て意味深に口にした。

 

「始まるな。」 

 

アキはあれのことを知ってるのだろうか、そして続けて言った。

 

「マキ、実は…。」

 

と真剣な表情、強張った声になった。

 

なんだろう、この感じは。

男子に告白されるってこんな感じだろうか、相手は女のアキだけど…

 

アキはさらにつづけてせつなげに言った。

 

「自分は君が思ってるような人間じゃないけど。」

 

うんうん、それで?

 

「時々どうすればマキの事を守れるか、考えてみた事がある。」

 アキ、本気なのか!?こっちも本気にしちゃうぞ…。

 

「実は私、普通の人間じゃないんだ…物質的に。」

 

え?アキ!?この状況で頭が混乱しそうだよ!悪い冗談であってくれ…。

 

私はアキを問い詰めて言った。

 

 「ねえアキ!アキコさんよ!わからないよ!誰がさ、物理的って?物質的って?あんた人間じゃないの?。」

 

私はアキを問い詰めながら、肩を掴んで揺らした。

 

彼女はそんな私を無視して呟く。

 

「まずは、あいつをなんとかしないとな。」 

 

そして影に向かって、荒いけど品のある、うんと古い時代の身分の高い人のように言い放った。

 

「なあ(エクリプス)だろ…お前。願いが叶って不死身になったのはいいが、化け物になったか…おれだ!覚えているだろう(ソレイユ)だよ!。」

 

アキが自分の事を、おれと言ったのを私は、聞き逃さなかった…。

君は実は男だったのですか!?いやいや、そんなはずはない…不死身…化け物…!?

 

突然に黒い影は宙に飛び上がった!

 

それを目で追うと、影は太陽を背にしていた。

 

目で追うと眩しくて視界を遮られた、あれはまるで日食のようだ。

 

ソレイユと名乗るアキはあいつのことを(エクリプス)日蝕と呼ぶので、名前の通りの行動をする虫や動物が沢山いることを思い出した。

 

その時、アキの背中が太陽のように赤く光った。

 

すると古代オリエントかエジプトのようなの太陽の絵が炎のように浮かび上がり、それらを装飾するように見たこともない不思議な字が浮かび上がった。

 

それがネックレスか、皇帝の宝飾のように連なった時、私は独りでに呟いた。

 

「モン・ソレイユ!あなたは私の太陽だったね…。」

 

なぜだろう、どうしてだろう、涙が勝手に…。

 

アキの体は、強く火花を拭き始めた。

炎のように燃え盛っているアキのそばにいるけれど、熱くはなくて、夏の太陽のように暖かい。

 

''鉄は熱いうちに打て''と言うフランスのことわざがあるけど、それはやる気になった時や、若い情熱を表す言葉だ。

 

でも目の前にいるアキは、本当に鉄のように熱い。

 

(エクリプス)は路地の影に隠れると、ちらちらと、こちらのようすを伺うように見え隠れした。

 

アキ、ソレイユは天をまっすぐ見上げた。

 

普通の人なら、太陽をみつめ続けると眼に良くないはずだけど…普通の人なら…。

 

アキが天に手を伸ばすと、その手には金の鞘に収まった剣(つるぎ)があった。

そしてすぐに剣を抜いて身構えた。

 

剣は片刃で太刀のようで、ダマスカス鋼のような派手な模様があった。

 

間もなく(エクリプス)は人の形に変化した。

 

アキを敵だと感じたせいか(エクリプス)もいつの間にか武器を手にしていた。

斧だろうか、あまり形はよく見えない。

 

ゆらゆら、ゆらゆらと(エクリプス)は不気味に動く、宙に少し浮いたかと思えば地面に吸い込まれる様に消えて、闇の影が一つ消えたかとおもえば急に二つになって現れた。

 

怖いけど…でも、こう言う時は決まって強い気持ちで立ち向かわないと、もっと怖いんだ!

しっかりしろ、マキ!負けない気持ちでいくぞ!

 

夜の闇が、一斉に私とアキに飛びかかって来た!

 

アキ、ソレイユは慌ててとっさに叫ぶ。

 

「目を閉じろ!。」

 

私はとっさに瞼をふさいだ。

 

そしてすぐに、瞼の向こうに強い熱を感じたかと思えば、体を吹き飛ばされそうなほど強い風を受けた。

 

「…もう目を開けていいぞ。」

 

と(ソレイユ)は言った、目を開くと、いつもと違う景色が見えた。

 

夕日に照らされた茜色の空に雲は一つもなくて、その中にアキ、ソレイユは剣を支えに立っていた。

 剣はシューシューと急に冷やされた金属のように蒸気を立ていて、ソレイユの体と、その周囲には消えかけの炎が、散らばるように灯っていた。

 

それは浴衣の模様を飾るようで、足の辺りに炎が多く、火炎の袴を履いているように見える、少し巫女装束に似ているかもしれない。

 

「必殺技と言うやつだ。」

 

と言う、アキがおちゃめに言ったので、気が緩んだ私は急に笑いが込み上げそうになった。

 

「アキ、私ちょっと思い出して来たよ。」

 

これは戦いの輪廻と、愛憎と希望の物語なんだってことを・・・。

なぜか急に、涙が止まらない。 

 

「ねえ、アキ!なんか言ってよ!。」

 

アキは、何か思い出したようにハッとした。

 

「り‥。」

 

り?

 

「りんご飴…神宮祭。」

 

今、気になってるのそれですか!?いいの!?この後りんご飴で…。

 

「アキが行きたいなら、いいけど…。」

 

 神宮の方向から前世の前世がなんとか言う曲が聞こえる、お祭りのカラオケ大会だろう。

 

「アキ、あんた…体は大丈夫なの?心が体を追い越しちゃった感じ?それでもできるだけ急いで来たとか…。」

 

私は緊張が解けたせいで、つい思ったことをそのまま口にだしてしまった。

 

 ✙

 

私とアキは、H(アシュ)市の神宮にたどり着いた。お祭りは、例年通り盛り上がっていて、見ているこちらも元気になってくる。

 

私達は夜店で焼きそばやボトルの飲み物、何か名前を忘れそな餅をぐるぐるに串に巻いた新しい食べ物を買い、それを頂くのに丁度良さそうなベンチを見つけたので腰を降ろした。

 

そして、くじ引きでゲットしたピカピカ光る頭の飾りをアキに付けた。

 

アキにさっきまでの事をあれこれ聞きたいが、彼女もほとんど何も解っていない様子で深く追求する気にはなれなかった。

 今はそれより、神宮祭を楽しまなくちゃ!

 

さっき買ったものを、ほとんど食べ終わったところで、私は勇気を出してアキに言ってみた。

 

「…手つなごう。」

 

アキはなにも言わない。

 

そして続けて言ってみた。

 

「ねえアキ…キスしてもいいかな?。」

 

アキはしばらく何か考えた後に苦い顔をして言った。

 

「あのな、ここでユリると学校の生活も今後の展開も、ややこしくなるぞ…。」

 

ああ、ラムネが美味しい!ラムネ美味しいな〰️!でも、ビー玉が取れないよ!!

 

モンペール!明日から私どうしたらいいでしょう!

 

コンテニュイ!

 

つづくよ!



Episode 2 (イピゾ・ドゥ)

 

Mon Seigneur des Anneaux.(私の指輪物語

 

 

((ボンジュール、私はマキ!))とノートに書き始めた。

 

((モンペール、未知との遭遇は突然に訪れました、これから困難に立ち向かう私の青春の日々を祝福してください。アーメン、なんちゃって))

 

 ✙

 

朝、学園の私の机の上に指輪があった、それはシルバーかプラチナに見えた。

私のものではないけれど、どこかで見た気もする。

 

それを持ち上げてアキにを見せると、彼女はちょっと怪しそうな顔をして

 

「プレゼント?だれから?。」

 

と、羨ましそうにではなく、気味悪がって言った。

 

私はなんとなく指輪に問いかけた。

 

「そうなのかい?きみは、誰かから私へのプレゼント?。」

 

ものに話しかけるのは子供のすることかもしれないけど…。

 

すると

 

”O…Oui”

 

と指輪に文字が光るように浮かんだ。

 

なにこれマジカル?それともサイエンス?

世にも奇妙な声に答える指輪だ。

 

それからつづけて小さな声で

 

「Tu t'appelles comment?。」(”君の名は?”)

 

とリングに尋ねると

 

"Éclipse”

 

と言う字が現れた。

 

エクリプス!!

 

この間出会った怪人と同じ名前が現れた事に驚いて、アキが急に一歩後ろに下がって苦笑いをして言った。

 

「嫌な予感がするぞ…あとでこいつをなんとかしないとな、ハハハ…。」

 

✙ 

 

エクリプス、つまり日食。

 

月と太陽が重なって漏れた光が、ダイヤのリングのように見える現象をあるとテレビで見た記憶がある。

 

それを”日食のダイヤモンドリンク”と言うらしい、たった今思い出した。

 

なぜか何回も、日食のリングを見た気がする。

 

明日、アキと一緒にこのリングを調べる約束をしてそれを持って家へと帰った。

 

 

アキの家は昔ながらの小さな和菓子屋だ。

入り口の引き戸を開けるとアキのおじさんが、寿司屋の大将みたいな気持ちのいい声で迎えてくれた。

 

「おういらっしゃい!今日は何にするんだい!。」

 

 おじさまと、アキの笑顔はとてもよく似ていた。

 

私は意気込んで返事をする。

 

「大将、適当に握ってくれ!。」

 

こんな風に答える自分ってカワイイかも!なんて思ったりした。

がんばれ自分、がんばれマキ。

 

これから謎のリングを調べるんだ、ふざけてる場合じゃないぞ!と考えていると

 

ちいさい男の子が私を出迎えるように現れた。

 

「まきちゃん!こんにちは!。」

 

とアキの4才の弟の吹雪ちゃんがやって来た、ころころと丸くて吹雪饅頭みたいでかわいい。

 

すぐにアキが吹雪ちゃんの頭を撫でて言った。

 

 「吹雪、幼稚園たのしいか?弁当は美味かったか?。」

 

年が離れたきょうだいって、親子みたいな会話するんだなぁ。

 

と思いながら私は吹雪ちゃんの頬を撫でた。

 

柔らかい…。

 

 

私とアキはお茶とお菓子をいただいて、彼女の部屋に向かった。

 

アキの部屋は、趣がある和室だ。

 

使い古された学習机や地球儀が、有名な漫画の、のびのびとした感じの男の子の部屋を連想する。

 

かと思えば部屋のあちこちに昭和の雰囲気をかき消すように、オトメちっくなグッズがかなりある。

 

オトメちっくといってもメルヘンな少女趣味ではなく、女性向けコンテンツの美少年アニメキャラグッズ等だ。

 

聖エルモは女子校なせいか、こう言うのにハマる人は多い。

 

クラスで有名なの王子キャラクターを取り合ってもめた時は、この世の地獄を見た気分になった。

 

そして私は、ちゃぶ台の上にケースから取り出した指輪を置いた。

 

すると、急にアキは言った。

 

 「さて、これからこいつを調べるわけだけど、他に誰か呼んだほうがいい気がするんだ。」

 

私はすぐに答えた。

 

「アキ?なんでさ、二人だけの秘密じゃなかったっけか、大丈夫なのそれ?。」

 

急にそんなのおかしい、どう言うことなんだ。

 

その前にノリで二人だけの秘密なんて言葉を出したけど、良かったのだろうか、こう言うことは多くの協力があったほうがうまくいく場合もあるし、仕方ない。

 

アキは上を向いたまま、つぶやいた。

 

「誰かもう一人くらい頭がいいって言うか、物知りで冷静で・・・。」

 

ああ、アキ。キミはこう言う時、言葉が足りない。

私は彼女の考えを察しようして言った。

 

「つまりアキは誰かに記録や分析のサポートを頼みたいのね、何かあっても二人より三人のほうが安全だ。」

 

さあ、話しは進んで来た。 

 

すぐにアキが返事をした。

 

「まっ・・・そう言うこと。できれば日本語わかる人で、口が固そうで。」

 

そうだよねアキ、それなら…

 

ミドリはリアクション大きいし、クロエは音楽部のバイオリンで忙しいし、アフリカンのみんなじゃ、絶対笑い続けるだろうし、こうなりゃあの橋本さんしかいない。

 

消去法で出た名前をぼんやりと呟いてみる。

 

 「橋本さんかなあ…。」

 

すると、アキは斜め上を見て手を叩いた。

 

 「よっし…連絡してみよう

 

 

三十分くらいで橋本さんが来た。

 

その姿は、たまにしか切らないようなロングヘアに金属フレームの眼鏡で、よく見ると高そうなお洋服を身に纏っていた。

 

モンペール、おらのかみさま、たすけてくれ!おっかねえ!ありゃ、ありゃあ!

たぶん、でぜえなあずぶらんどのワンピースだ!ひえーっ!

 

対して私はTシャツにハーフパンツと言うラフな格好。

アキは温泉旅館の従業員ような作務衣を着ていた、自分で作ったらしい。

 

ボンジュール、マドモワゼル・ハシモト。

お使いにならない、お洋服を譲ってくれませんこと?

 

 ✙

 

三人が腰を下ろした所で私は言ってみた。

 

「と言うわけで、第一回このよくわかないものを、なんとかしよう大会…はじまります!。」

 

だめだ、我ながら良い名前が思いつかないけれど、とにかく会合よ私の合図で始まるが良い。

会合よ始められよ、私の合図によって

ああ、だめだ訳し間違えた文章のようだ、真面目にやろう。

 

橋本さんが一旦、肩を落とし、少し早口で言った。

 

「僭越ながら司会、および書記を務めさせていただこうと思いますが宜しいでしょうか。」 

 

アキはお茶を吹き出しそうになって慌てて返事をする。

 

「固いよ!全部やってるじゃないか、モチ食うか、茶飲むか!?。」

 

私には一つ気にかかることがあった。

 

「そういえば…ねえ橋本さん。」

 

彼女だけ、橋本さんだけクラスの中で名字で呼ばれるている。

 

他人っぽすぎる、私たちはもう仲間だ。

 

ああ、モンペール!

 

しかし、この人の名前は所謂キラキラネームで

聖銀希星とかいてシルベストラちゃんなのです!ハーフやクォーターではないと言うのに!

 

洗礼名付きなら、テレジアおとめ教会博士・聖銀希星(シルベストラ)・橋本さんなのです!

 

よしっ...行くぞ!ここはひとつ…

 

「ねぇ橋本さん。家でなんて呼ばれてるの?聖銀希星(シルベストラ)だから?シルヴィーとか?。」 

 

そう言ってみた所で私はアキを見て、意見を聞こうとした。

 

すると彼女は深呼吸して意気込んで言った。

 

「一丁呼んでやろうじゃないか!!聖銀希星ちゃん!テレジアおとめ教会博士・聖銀希星・橋本ちゃん。」

 

と大きな声で彼女をフルネームで呼んだ。

 

アキは一つの壁に迫った。なかなかクラスのみんなと打ち解けられない橋本さんの心にぐっと迫ったのだ。

 

これは友情の感動のワンシーンかもしれない!

 

橋本さんは微笑んで言った。

 

「…はい!シルヴィーでいいですよ。」

 

 

シルヴィーはエクリプスの指輪を見つめて言った。

 

「おそらくオーパーツですね。」

 

オーパーツ、オカルト番組で聞いたことがある、時代や場所に合わない不思議な物の事だ。

 

アキが不思議な様子で言う。

 

「なんだか光ってるみたい、よく見て。」

 

アキがリングを両手で覆うと、かすかに光が漏れた。

 

そしてシルヴィーが一息ついて言った。

 

「……と言うか、なんでこんなことになったの!?。」

 

 それからと私をアキを、真顔で見つめた。

アキは深呼吸して言った。

 

「私が前世の記憶とか超能力に目覚めて、襲って来たやつを倒してさ、そしたらマキの机の上に、ある日そいつと同じ名前が浮かび上がる指輪があって、これなんとかしたいから誰かに手伝ってほしい。」

 

うん!つまり、そう言うことだ。

 

シルヴィーはスマホで録音を始めて、メモを取りながら私とアキを問い詰めるように言った。

 

「超自然的現象と仮定してもいいですね?。」

 

私は少し考えて首を縦に振った。

 

シルヴィーは続けて問いかけて来た。

 

「それは、記憶に干渉しますか。」

 

彼女はきっとカンが鋭い、リングの脳への影響を確認しているのか。

 

アキは黙って頷く、シルヴィーは典型的な秀才にも見えるし、ちょっとアブない子にも見えた。

 

それから彼女は心配そうに言った。 

 

「それはあなたたちの今後の人生に影響があるのではないでしょうか。」

 

彼女はこのリングが、人生を狂わせるすごい物と言ってるらしい…。

 

そっか、そうかもしれない…。

 

今の三人のやり取りが楽しから、忘れかけていたけど、このリング、とんでもない…この世のものじゃないみたい。

そして第一に珍しすぎる、世に出れば誰もが黙ってない。

 

シルヴィーが指輪をハンカチに包み、目の高さまで持ち上げた。

 

途端にどこからともなく

 

(おいで…おいで…)

 

(おいで…)

 

と聴こえた。

 

誰かがこちらに囁いているような気がする。

 

(おいで…おいで…おいで…)

 

その音は止まない。

 

背筋に寒気が走ったので心細くて、アキに肩を寄せた。

 

シルヴィーが指を口元に立てて、しーっ!のポーズをした。

 

アキが少し怯えながら、謎の声に答えて言った。

 

「おいでって…誰だよ、お前!どこに行けって?。」

 

すると、アキの姿はこつぜんと消えた。

 

一瞬で、いたはずの所からいなくなった、私はおどろき戸惑う事しかできない。

 

 

 

私は深呼吸して、なんとか落ち着きを取り戻した。

 

シルヴィーはしばらく沈黙した後、考えを話した。

 

 「まずは錯覚と過程します。指輪を洗脳機械であると仮定してみましょう…。電波を遮断するには金属で囲うのが一番ですから……クッキーの缶か何か!早く!。」

 

知性と大胆さを持つ言葉は、周りの人を動かすのかもしれない。

 

私は反射的にうなずいて、アキの部屋から金属の物を探した。

 

そして、お菓子のおまけのマークを集めるともらえるブリキの貯金箱を、ガシャン!とちゃぶ台の上に置いた。

 

シルヴィーはその中にリングを入れた。 

 

「マキさん。こんなこともあろうかと思って、アキコさんは私を呼んだのではないでしょうか…。」

 

確かにその通りだ、アキ…。私、アキを探しに行かなきゃ。

 

シルヴィーは少し考えた後に貯金箱を見て言った。

 

異世界、もしかするとアキコさんは異世界に連れ去られたのではないでしょうか。おとぎ話の魔女は罠を仕掛けて人をさらうでしょう?。」

 

だったら、アキを助けに行かなくちゃ、私も指輪の世界に行かないと!

 

シルヴィーが考えながらつぶやく。

「アキコさんは前世の記憶か何かに目覚めて、怪人を追い払った。後日、あなたのもとに怪人と同じ指輪のリングが来て、アキコさんをさらった。考えられる答えが今、一つあります。」

 

・・・と言うと?

 

シルヴィーはこちらを真剣に見て問いかけた。

 

「あなたと指輪の関係に、答えがあるのではないでしょうか。」

 

そうかもしれない…、すべての原因は私かもしれない。私も、アキみたいに古い記憶があるのだろうか…。

 

貯金箱の中の指輪が強く光って部屋の中をストロボのように照らした。

 

この感じ、ずっと昔にもあったような…。

 

 私は叫んだ。

 

「エクリプス!アキを返せ!。」

 

貯金箱の中からガチャガチャと音を立ててエクリプスの指輪が出て来た。

 

私はそれを掴むと、目の前の景色がぼやけ始めた。

 

シルヴィーが大声で私に問いかけた。

 

「マキさん!なにがどうなってるんですか!時空が歪んでいるのでは!?異世界にでも行こうって言うんですか!?。」

 

モンペール、この世には謎が多すぎます…。

 

そして、私にアキを助ける力をください!

 

だって私、アキの事が好きだから!

 

シルヴィーが微笑んで狂ったように言った。

 

「次は異世界ってワケ~!?もうヤケです!どんな状況でも楽しみましょうか!ふふふ…ふふふ…ふふふ…。」

 

…怖っ。 

 

- A suivre !

Epsode 3 (イピゾ・トワァ) 

Mariage clair et sombre.

(光と闇のマリアジ)

ボンジュール、私はマキ。

フランス系のミッションスクール、聖エルモ学園に通っている。

六月の日曜日、私はアキとシルヴィーと三人で、不思議なリングを調べていたら時空が歪んでしまい…

と、これまでにあった事をあらすじのように思い返した。

暗くて周りがよく見えない…。

「ああ明かりが欲しい。」 

と口にした途端、握った手の隙間から白熱灯のような光が漏れた。 

エクリプスの指輪が光っていた、きっと、私の願いに反応したのだ。

辺りを見回すと、普段と全然違う世界があった。

今は夜で、ここはあぜ道らしい。

土はうっすらと緑色で、葦の様な草はうっすらと赤い。

どうやら異世界に来てしまった様だ。

空には星がとても沢山あって、赤や青の星雲が沢山ある。

見知った星は一つも無く、ここはとても美しいけれど、不安になった。

流星がぽつり、ぽつりと現れては消える。

しばらく空を見上げていたら、流星の一つがこちらに向かって来た。

…近い?近い!?隕石がこっち向かって落ちて来た!

隕石が近くに落ちてきて大きな音と土ぼこりがあがった。

目を開いて見渡せば、白い麻のローブを被っている子供がいた、たぶん男の子だ。

…アンジェ(天使)?いや、まさか。

髪と目は青い恒星のようで、目が合うと不思議そうにこちらを見た。

「君はなんだ…あれか?星の子とか?そう言うのかよ、あれか?アンジェ?…やば。」

私は驚きすぎて変な言葉を出してしまった…。

 男の子は私に挨拶をした。

「ツバサ、生まれたてのみ使い。君たち言葉で言えばアンジェ(天使)だ。」

私はツバサくんに問いかけてみた。 

「生まれたの所で申し訳ないんだけど、私、アキを探してるんだけど、何か知らない?。」

私って自分勝手!でも、もう手段は選んでいられないの! 

ツバサくんが私に返事をする。

「うん、今きみの心と空気を読んだ、だってボクは風の、み使いだからね。」

ツバサくんが祈り始めると、彼の体が青く光った、アキが力を使った時に似てる。

彼のローブの裾をめくって中を見てみると、その背中にモダンなタトゥーのような、光の文字が浮かんでいた。

そして風に乗るヨットの絵が表れた。

ツバサくんは言った。 

「飛ぶよ!。」

どこへ!?

「きみの行きたいところさ、目を閉じていて!。」

一瞬、強い風に吹かれたと思うと、中華か、ベトナムか、東南アジアのどこかのような繁華街にたどり着いていた。

モンペール、なんと言う事でしょう、これはワープでしょうか。

ツバサくんをちらりと見ると、彼はうんうんとうなずいた。

街はとても賑わっていて、あちこちに赤提灯が燈っている。

屋台、露天、行商人、遊女、酔っ払いなどが、行き交っていた。

屋台で食べ物を頂こうかと思ったけれど、この世界のお金を持っていないし…。

その時、行き交う人々の中に見知った顔を見つけた。

シルヴィーによく似た顔だ…シルヴィー!

さらさらのロングヘア、眼鏡、クールな目元、ちょっと高そうな服はこの世界のものだけど

あれは、シルヴィーのセンスだ。

目が合うと、シルヴィーらしき人物がやって来た。

そして、私に笑顔で語りかけて来た。

「ボンソワ、マキさん。異世界の物を食べると、元の世界に戻れなくなるのは、ファンタジーではよくある話ですから気を付けてくださいね。」

間違いない、シルヴィーだ。 

シルヴィーと再会の喜びを分かち合った。

今はお互い何があったか話し合うべきだろう。 

シルヴィーは見慣れたカロリーバランス食品のビスケットを取り出して分けてくれた。

「マキさん、まずは腹ごしらえでも。」

 この粉っぽいカカオ味が好きなんだよな、うんうん。

「あの、そちらは?。」 

シルヴィーはツバサくんを三度見した。

「やあ、きみはシルヴィーだね?。心を読ませてもらったよ!ぼくはツバサ、風の天使なんだ。」

きみは心を読めるんだね!

シルヴィーは目を何度もぱちぱちさせてから、ごくんとのどを鳴らし

ツバサくんを抱きしめて、声にならない声を上げた。

そして息を落ち着かせてからツバサくんに挨拶をした。

「良い…。じゃなかった!私、マキさんのクラスメイトのシルヴィーです、どうぞよろしく…まあ、まあ、愛らしい。」

モンペール、シルヴィーをお許しください

✙ 

ツバサ君のテレパシーのおかげで私たちもこの世界の言葉がわかるようになった。

それはとっても助かる。

そして、シルヴィーは持っていたアキの貯金箱に中の小銭を、この世界のお金に交換した。

この世界のお金は、きらきらと輝く水晶の宝石のようだった。

そして街の地図を買った、開いてを見ると街の四方に門、住宅地、繁華街があって、中央には宮殿があった。

この都の名前は戈莫拉(ゴウモウラァ)と言うらしい、どこかで聞いた事がある気がする。

アキはどこにいるのだろう、私たちはどうすれば元いた世界に帰れるのだろうか…。

なんて思っていたら、街が急に騒がしくなった。

宮中の武漢らしい男が三人、市街を走り回りながら叫んでいた。

「姫が逃げた!姫が逃げた!年の頃、15程の娘であられる!連れて来た物には褒美をとらせよう!。」 

姫が逃げた?まあ、お姫様だって窮屈な暮らしは辛いよね。

きっと自由に恋も出来ない、ほとんど自由がないんだ。

シルヴィーが胸を押さえて言った。

「まあ、お気の毒に…お姫さまは何から逃げたのでしょう、政略結婚でしょうかね。」

ツバサくんは遠くを見て言った。

「色んな事をたどると、目的にたどり着くかも!。」

そっか、さすがツバサ君だ。お姫様を探し出し、宮廷に恩を売れば、アキを探すのもはかどるし、元の世界に帰れるかも!

街を歩いていると、私のそっくりさんを見つけた、私にそっくりな人が目の前に立っている。 

それは相手も同じらしく、シルヴィーもツバサくんも目を丸くした。

そしてもう一人の”私”が私に言った。

「お主、妾に良く似ておるな。理由あって追われている。助けてくれないかえ!。」

もう一人の”私”は絹の衣を二枚羽織っていて、身分が高い人物のような姿をしていた。

ツバサくんが言った。

「もしかすると、謎が解けるかもしれないよ。」

シルヴィーもつづけて言った。

「マキさん、ここは彼女の言う事を聞いてみましょう。」

私は屋台の陰で、もう一人の”私”にされるがまま衣を取り替えた。

もう一人の私は荷物の中のボロきれを纏った。

 そして、もう一人の”私”は私に名乗った

 「わらわの名は”ジェンツィー”月の巫女じゃ、皆からは”賜物”の姫、月の巫女などと呼ばれている。」

私も名乗った。 

「H市の高校生マキ。よろしく。」

ジェンツィーは私の指に、リングを握らせると人ごみに紛れて去っていった。

リングには”真希”と記されていた。私の名前と同じ字だ。

真希と書いて、ジェンツィーか…。

これは、きっと何かあるよ。

シルヴィーは言った。

「まるで童話の王子と少年みたいですね…。」 

ツバサくんは続けて言った。

「マキはお姫様、ぼくとシルヴィーは家来として宮中に潜入する。きみのたいせつなアキを探しに行こう。」

 よっしゃ、オッケー!

私と、もう一人の私は月の表と裏のようだと感じた…。

 ✙ 

私は、姫を探す宮廷武漢に見つかった。

「姫殿下、何をしておられたか…。お宮に帰りますぞ、女官たちも心配しております。」

どうやら彼は私を、ジェンツィーだと思い込んでいるらしい。

私は彼女になりきって答えた。

「大事ない、ほんの戯れじゃ。帰るぞ。」

お、我ながらそれっぽく答えられた。

学校をサボって宮廷恋愛ドラマ見てた甲斐があったといものだ。 

武漢はシルヴィーとツバサくんを指さした。

「姫、あの者たちは?。」

武漢はシルヴィーとツバサくんを指さした。

私は答えた。

「あれであいつらは、気が利くし、頭も良いのだ。私の世話役に迎える。」

武漢はため息をつく。

「はあ、しかし娘の方はともかく、男児では…。」

 シルヴィーはとっさに答えた。

 「武漢さま。この娘は追剥に合って、髪も切られたのです。行く当てもなく、さ迷っていた所、ジェンツィー様にお情けをいただきまして、どうか宮中での仕事をば!よよよ…。」

 シルヴィー、あんた劇団にはいれるよ。

と言うわけで、私たちは宮中に入る事になった

それから何日経っただろうか。

宮中ではいつも豪華な食事やお茶菓子が次々とふるまわれていて、宴席では女官たちが踊りと芝居、曲芸を見せてくれる。

日頃、私のする事は拍手くらいだった。

そして不思議な事にこの世界、ずっと夜で時間も暦も全く進まないのだ。

この世界の食べ物を口にしたせいだろうか、シルヴィーも宮中に来て何日か忘れて毎日、浮かれ騒いでいた。

ツバサくんは時々、ため息交じりにこちらを見る。

いくら食べて飲んで遊んでも、また食べて飲んで遊びたくなる。

そして寝ても、また夜だ。

しかし、時々なぜか浦島太郎のおとぎ話が頭をよぎる。

私は、エクリプスとジェンツィーの二つの指輪を見比べた、二つはとても良く似ていた。

「もうこのまま、”ジェンツィー”になってもいいかも…いいや、私やっぱりアキに会いたい、元の世界に帰りたい!時間よ進め〜ッ!。」

 なんて思った時だった。若い女官の一人が私に言った。

「姫殿下、明日は十年に一度の月蝕の日、(エクリプス)なる魔物が都に出ると言う言い伝えもあります。ここは魔除けに剣舞などいかがでしょう。」

私の願いで時間が進んだのだろうか?

剣舞、ケンブ。

剣の舞か。きっと鮮やかなんだろうな。

若い女官の一人は続けて言った。

 「生まれは卑しい蛮族の娘ですが、宮中の下働きで芝居と剣舞の達者な娘がおりますゆえ、姫様にお見せしたく存じます。宮中のものみな朱子(ジュウツー)は殿方よりも凛々しいと言います。」

 ジュウツー?しゅし?朱子?あきこ!?

しばらくすると、下役の若い女官に連れられ、朱子はやって来た。上質で煌びやかな男性の服を来ていた。

朱子、ジュウツーは私の前に、ひざまづいて頭を下げて言った。

 「姫殿下にはお初にお目にかかります。宮中は男子禁制故、殿方に代わり、姫殿下に剣舞を披露しとうございます。」

私は答えた。

 「許す、表を上げろ。」

ジュウツーが顔をあげてこちらを見た。

この人は、アキとうり二つだった。

唯一違うところは、ジュウツーの髪と瞳はルビーのように赤い事だった。

そしてジュウツーは美しい剣技を舞った。

飛んで跳ねて、剣の一振りだけで十本のろうそくの火を消したりしていた。 

噂の通り見事な腕前だ、私が拍手をするとシルヴィーもツバサくんも拍手をして、女官たちが皆ジュウツーを称えた。

そしてシルヴィーが私に言った。

「あれ…アキコさんでは?。」

きみもそう思うか。

そして、ツバサくんも言った。

「はいはい、わかって来たよ。」

きみ、空気読むの上手いね。

今夜も宮中は贅沢三昧だ。

月蝕の日と言っても、月はいつもと同じ満月だろう。

そう思って宴の終わるころに展望台に出てみると、確かに月蝕になっていた。

空は月蝕、太陽と月とが完全に重なり、神秘的にもおぞましくも見えた。

ああ、でも何にも起らないだろう、寝てしまおう…。

いや、何かおかしい。城下が騒がしい様子だ。

城下のあちこちで火が上がっている。

外で武漢たちの叫び声がした。

「エクリプスだ!女子供を守れ!逃げろ、火が回ってくるぞ!。」 

エクリプス!?前にアキが倒した魔物と同じ名前、月蝕、日蝕の怪人だ。

 女たちの悲鳴とが大きくなるにつれて、エクリプスが近づいてくる事が分かった。

すると展望台の灯の陰にふわっと黒い影が表れた。エクリプスの怪人だ!

前に見たものと同じ禍々しい様子だった。

大男の形をした影が、揺らめくように怪しく動く。

どうしたら、どうしたらいいんだろう、シルヴィー!ツバサ君!宮中のみんな!

誰か来て、私はどうしたらいい…。

エクリプスの怪人が目の前に来て、武器を振り上げる動きをした。

死ぬのか?こんな所で、何も出来ないまま…。

…足音? 

足音が聞こえる!誰かが駆けつけてくる?

赤い髪、儀式用の紐と鈴が付いた長い諸刃の剣が目に飛び込んで来た。

ジュウツーだ、彼女は寝間着姿で駆けつけてくれた。

ジュウツーは剣で、エクリプスの攻撃を受け流し、私を守ってくれた。

そして叫ぶ。

「ジェンツィー姫殿下!ご無事か。」

あれ、この感じ、前にも…。

ジュウツーが剣を振り回す毎に、彼女の赤い髪と剣が灯の光の中で輝いた。

エクリプスは次々にやって来て、カラスの群れのように私とジュウツーを囲んだ。

エクリプスはきっと無数にいる、月蝕の間、ずっと増え続けるのか!

ジュウツーが剣を掲げて、強く凛とした調子で祈り願った。

「神よ、例えこの命が尽きようとも、姫殿下をお守りする力を!。」

ジュウツーが神に祈り願うと、彼女の体は輝きだした。

アキの時とほとんど同じ…

彼女は、二つ、四つ、八つ、十六と、エクリプスの群れを散らしてゆく。

だんだんジュウツーの輝きが弱くなって、剣を支えに立っているのがやっとになっていた。

そして、火花が舞い散り、炎の袴を纏っているかのような姿になった。

駆けつけて来た女官長が叫んだ。

「太陽神話の天子様がおられる、ジュウツーは太陽の使いか!。」

女官長はひれ伏してジュウツーを拝めた。ジュウツーは私に語りかける。

「姫殿下、私のこの力はかの洪水を生き残った、内菲林(ネイフェイリン)の一族の血筋を引いている証拠です。」 

どこかできいた事のある伝説、洪水、内菲林(ネイフェイリン)戈莫拉(ゴウモウラァ)

ジュウツーは続けて言った。

「姫殿下に生き延びていただくために、私の血を飲んでください、さぁ…力を!分けます。」

分ける?力?

ジュウツーの血を飲むと、不死身になる?

不死鳥の化身とでも言うのだろうか…。

ジュウツーは剣で自分の手を切り、両手で血の盃を作り、私の前にひざまづいた。

何かがわかりそうだ・・・私は言われるがまま、ジュウツーの血を飲んだ。

急に力がみなぎる感覚がして、頭が冴えた。

同時に何か、すごくすごく悪い事をした気分にもなったのはなぜだろう。

聖書のエバが蛇、サタンに騙されて知恵の木の実を食べた時もこんな感じだったのか…。

「ああモンペール、私に大切なものを守る力をください!。」

祈り願うと、指輪が光ったので、私はそれを高く掲げた。

今ならわかる!

エクリプスが一斉に指輪の中に飛び込んで消えた。

ああ、私がこの世界に来た理由がわかった、これは遥か昔の記憶だ。

戈莫拉(ゴウモウラァ)の都、それは旧約聖書に登場するゴモラに似ていた。

神への不信仰で、罰として火に焼かれて滅ぼされたと言う。

不思議な力を持つジュウツーは、内菲林(ネイフェイリン)を先祖に持つと言う。

それは天使と人の間に出来た邪悪な存在、ネフィリムだろうか。

ノアの洪水で滅んだと聞くけど…。

 私の中にあるおかしな記憶、それは私に取り憑いていた堕天使の記憶だ。

ああ、モンペール、この世には悲しい事が多すぎるのです!

それでも私に不思議な力があるなら、誰かを守るために使いたいんだ!

掲げた指輪を左の薬指にはめて、本物のジェンツィーからもらったもう一つの指輪を右手の薬指にはめた。

二人の私、二つの世界、光と闇、今なら全部受け止められる! 

魔性の指輪よ!私を元の世界に戻せ

「マキ…、おおい。おきろよ!。」

アキの声がする。

「マキさん!マキさん!。」

そしてシルヴィーの声も聞こえる。

どうやら、私は元の世界に戻って来た。

シルヴィーは"あっち”の世界のお金をおはじきのようにじゃらじゃら鳴らして笑って言った。

 

「これからです、これから…。私たち、”悪いものD...DIABLE、悪魔から皆を守る使命があるようですね。」

私、どうやら不思議な力に目覚めた。

二本の指輪を外すと、私の両方の薬指には、指輪のアザがのこった。

これはきっと印だ、光も闇も過去も今も、夢も現実もみんな受け入れる事がで来た印だ。

光の指輪は別の世界への入り口、影の指輪は出口だ。

きっとそのうち、私の背中にもアキやツバサくんみたいな光る文字と絵が現れる事だろう。

ああでも、それよりも今気になるのは・・・夕方のアニメ!楽しみにしていたの。

「アキ。テレビのリモコン貸して!アニメみるの…。」

アキは笑って言った。

「今日はスポーツの試合で放送は休みだぞ。」

ああああああああ!

- A suivre !

つづくよ。

Epsode 4(イピゾ・キャト)

 

Mon jardin miniature bien-aimé.

 

(私の最愛のミニチュアガーデン)

 

 

六月、エルモ祭の日が近づいて来た。

 

私たちの聖エルモ学園の伝統のある学園祭だ。

 

みんなの力で成功させるぞ!

 

今年も各クラスで模擬店や、聖エルモや学園の歴史の演劇、フランスや各国の音楽のステージがある。

 

そして、なにより私が楽しみなのは、世界各国の料理が食べられる事だ。

去年食べたセネガルの豆のカレー、すごく美味しかったんだよな…。

 

他には船の上でバンドに合わせて肩を組んで歌ったりと、欧風な感じと日本風な感じがいい具合に折り重なっていると思う。

 

美術部は私たちの守護聖人、聖エルモの姿を絵に描いたり、船に静電気が起こって光る聖エルモの火の模型を作ったりしていた。

 

音楽部は、ステージでの演奏会を練習をしている、今年の演奏は、聖歌と深夜アニメの主題歌だ。

 

この学園の良く言えば和やか、そのまま言えば緩い雰囲気での練習は、気持ちを和やかにさせてくれる。

 

今年、私はなんとフルートを担当する事になった、受験勉強に挑む三年生の先輩が、私にフルートを託してくれたのである。

 

これはとても嬉しかった。今日も今日とてエルモ祭の準備だ。

 

 

 そんなある日の放課後。誰かが私の肩を叩いた、振り返ってみると生徒会長の愛花さんがいたのだ。

 

容姿端麗、成績優秀、栗色のボブヘアと緑色の瞳のみんなに慕われる生徒会長だ。

 

「サヴァ?マキちゃん。」

 

げ、呼び止められた!何か悪いことでもしたかな、私は少し慌てて答えた。

 

「は、はい。」 

 

愛花さんはじっとこちらを見て言った。

 

「エルモ祭、成功させましょうね!。」

 

そう言って囁くと、私に何かを握らせてくれた、紙のようだけど、メモの伝言かな。

 

確認してみよう。

 

な…福沢諭吉の顔、一万円札とメモだ。

 

(クラスの面倒と、私の手伝いをよろしく。ジュテーム!)

 

とんでもない奴、わいろか、嫌いじゃない!顔を上げると目の前に愛花さんはいなかった。

 

愛花さんを探して教室を見渡すと、彼女と同じ三年生のクレアが、クラスのみんなにお菓子を配っていた。

「マスール・ステラが焼いたキッシュだよ!みんな食べて!学園祭頑張ろうね!。」

 

クレアはクラスのみんなに笑顔でキッシュを配っている

 

あれは私たちを労っているのか、それとも餌付け?

 

「ありがとう…。」

 

「アリガト!。」

 

難民が食事を求めるように、クレアの周りに十二人ほどが群がる。

 

「ください!。」

 

「プリーズ!。」

 

「シルブプレ!。」

 

みんな様々な言葉で、目の前の食べものを求める。ああ、みんなが餌付けされている!

 

アキ、シルヴィー!君たちは簡単に上級生の言いなりになんてならないよな!

 

そういえば、エルモ祭が終わったら、私たちの周りで起こった不思議な事の研究をする約束だったよな!忘れてないよな!

 

影の様な怪人、エクリプスが襲って来た。

 

アキが不思議な力でそれを追い払った。

 

後日、私のもとに不思議な指輪が届いた。

 

三人は指輪で幻を見て、不思議な街、と宮殿の夢を見た。

 

風の天使、ツバサくんに出会ったんだよな。

 

それは実は聖書のゴモラで、アキにそっくりのジュウツーが月蝕の夜に怪人エクリプスから

私を守ってくれて、私は生き延びるためにジュウツーの血を飲み込んだ。

 

そして目が覚めて、三人は残酷な真実、堕天使の血を引いていたって事に気が付いた。

 

そうだよね、アキ、シルヴィー!

 

学園祭の準備も大事だけど、神秘的なことがあったことを忘れて暮らしてないんかいないよね!

 

アキがクレアからキッシュをもらって食べて言った。

 

「うまい、うまいぞ!マキも食え!。」

シルヴィーもキッシュを食べながら言った。

 

「うーん、美味しいです!嫌なことも難しい事も全部忘れられそう!ふふっ…。」

 

シルヴィー、笑うとかわいいな。

 

でも何てことだ!神秘の謎に挑むにはきみの知性が頼りなんだぞ!

 

ああ、モンペール、私はひたむき過ぎますか?

 

毎日色々な事があります、時に人は大事なことを忘れたり、考えすぎたりもします。

 

私に丁度いいバランスをください。

 

必要な時に、必要な事が出来るように…。

 

 

 エルモ祭まであと3日と言う所で、私たちのクラスの模擬店の準備が整って来た。

 

パワーストーンを使った手作りロザリオ、占い、オカルトグッズ、メイドカフェ。、ずいぶん色々やってしまうので、大丈夫だろうかと心配になる。

 

それぞれが、どこを手伝うかクジで決めることになった。

 

私は手作りのロザリオ販売。桜子、エステル、ミドリが一緒だ。

 

ちなみに、シルヴィーはオカルトグッズ販売、おそらくこのアイディアを出したのはシルヴィーだろう。

 

世界各国の魔術の道具や、なんだかよくわからないもの、エクソシストの道具がたくさん集まってしまった。

 

果たして売れるのだろうか、生徒の自主性を重んじると言う校風があるにしても、それはちょっと…あんまりじゃないかと思うけど意外とああ言う需要は大きかったりする。

 

エルモ祭に来た地域の人たちの目を引くので、逆に良いかもしれない。

 

今日もロザリオ作り、そして音楽部の練習だ。

 

あわただしい教室の片隅で、桜子がロザリオを作る様子を見ながら、私は息抜きに、フルートのロングトーンを癖のように練習をしていた。 

 

桜子が言った。

 

「上手くなったじゃん、フルート。ロザリオつくりもよろしくね。」

 

ああ、いそがしいこと。

 

アキはといえば、なんとメイドカフェ担当になってしまった。

 

メイドを冥土と聞き間違え、萌え萌えキューンを燃え燃えお灸だと思ってしまったらしい。

 

世間知らずにもほどがある、いくら家の和菓子屋を手伝うために夜はテレビも見ないで早く寝て、朝早く起きていると言ってもメイドカフェくらい聞いたことがあると思うけど…。

 

でも、そこが好きなんだよな、そう言うアキの天然な所。

 

アキのあの服、あれは…どこかで見覚えが。ああ、あれは!

 

学園のホールにかざってある、大正時代の制服の振袖袴!にブーツ!

 

はいからな、女学生さんの姿だ。 

 

まさか勝手に着たわけじゃないよな…。

 

そしてさらに割烹着を羽織ったぞ!

 

アキの着物姿…、似合う。

 

ああ、モンペール!メルシー!

 

アキは笑って言った。

 

 「似合うか、女中の服ってこれでいいんだろう。」

 

もういいですそれで!女中喫茶でいいです!

 

次の日、学園のホールにある大正時代の制服のマネキンは裸になってしまっていた。

 

 

エルモ祭まで、あと三日になった。

 

音楽部の生徒は、ステージで良い演奏をするため、日夜追い込み練習をしていた。

 

希望する生徒は、保護者の許可があれば、修道院か、寮に泊まり込んで練習をしていた。

 

私は家が近いのでその必要がないのだけど、愛花さんにマスールと寮生の食事会に誘われたので、桜子とエステルと一緒に参加することになった。

 

祈りに始まる食卓には、フランスの地方の家庭料理が並んでいた。

 

どれも質素だけど美味しくて、景気づけにマスールたちはルヴァン(ワイン)を口にしていた。

 

80歳くらいであろうマスール・ルイーズが上機嫌で私にルヴァンを勧めた。 

 

「マキ!若いうちから酒の飲み方位、覚えておくんだよ!。」

 

私、未成年だけど…。まいっか!ホントは家でもたまにルヴァンを失敬して飲んでるの!

 

目の前のグラスに、マスール・ルイーズの手からソーヴィニヨンが注がれる。

 

私はその香りを味わうと、意気込んでグッと飲み込んで言った。

 

「みんなでエルモ祭、成功させるぞ!。」

 

うん、いける!…ふぅ、もう一杯いってみるか。 

 

 

エルモ祭の初日が始まったかと思えば、あまりにもいそがしくて一息もつく間もなく終わってしまった。

 

それから今日の片づけと、明日の準備で、すっかり遅くなってしまった。

 

私は夜のだれもいないお聖堂で、お祈りをする事にした。

 

お聖堂の扉をあけ、手前の椅子に荷物を降ろして、その場にひざまずいた。

 

「モンペール、この箱庭を守る、私のお父さん、みんないつもの通り賑やかで、いろいろやらかしてくれました。アキに至っては大変でした。お客さんがアキに、あきこたん、はあはあ萌え萌えなんて言ったので、アキは燃やすぞ。と返してしまいました。あの子なら本当にやりかねません。でもお許しください!悪い子じゃないんです!シルヴィーも小さい男の子にニヤニヤしながら抱き着いたりしていましたが、悪い子じゃないんです!悪い子じゃないんです!お許しください…。今日も私たちを見守りくださりありがとうございます、そして明日のステージが上手くいきますように。」

 

 私は祈り終わると、お聖堂の寄付献金箱に、愛花さんからもらったお金の一部を入れた。

 

ここまでエルモ祭が上手くいったのは全部神様のおかげだ、だから恩を神様に返したと言うわけだ。

 

急に私を呼ぶ声が聞こえた 

 

「マキ…。」

 

誰かが私を呼んだ!?耳を澄ませて聞いてみよう。 

 

「マキ…ぼくだよ…きみのもとに使わされた風の天使、ツバサ。」

 

 ツバサくんの声、きみは本当にいたんだ!幻じゃなかったんだ。

 

ツバサくんは目の前に姿を現すと言った。

 

「わいろにもらった分を寄付しちゃうなんて、粋な事するじゃないか。」

 

 私は、ちょっとカッコつけて返事をした。

 

「よせやい、へへ。」 

 

ツバサ君は私のフルートのケースを指して微笑んで言った。

 

「ちょっとそいつを聞かせてくれないかい。」

 

なぜ江戸っ子口調!

 

私はツバサくんのために、シューベルトアヴェ・マリアを演奏すると彼はそれに合わせて歌ってくれた、なんて綺麗な声なんだろう。

 

ああ、私やアキ、そしてシルヴィーもきっと、聖書の悪の存在の血をひいている。

 

初めての殺人をしたカイン、ソドムとゴモラ…他にも沢山だ。

 

さらにたどると人はみんな、サタンに騙されて知恵の木の実食べたエバにあたる。

 

 だけど、きっと神様は悔い改める人をお救いくださる、今はそう信じていたい。

 

コンテニュイ、つづくよ!

 

Epsode 5(イピゾ・サインキ)

 

  C'est l'oeil d'un dragon?

 

(それは竜の目ですか?) 

 

✙ 

 

ジュイエット(七月)になった。

 

私と、アキとシルヴィーは放課後や休日にクルーズ船の観光客を相手にフランス語でガイドをしてお小遣いを稼ぐようになった。

 

 市内の有名お嬢様高がボランティアで英語の観光ガイドをしているのだからつい張り合ってしまう。

 

私たちはオカルト研究会を始めてしまったので物入りになった、部費が必要だ。

 

世界にはまだまだ謎がたくさんある、なにより私の周りで不思議なことが色々おこっている。

 

いつかきっと、解き明かすんだ!

 

 

ある朝、教室でアキは、定番のオカルト雑誌を広げた。

 

願いが叶う宝石【ドラゴンアイ】の通販ページを私とシルヴィーに見せた。

 

いつも朝、眠たそうにしているアキだけど今日はシャキッとしている。 

 

彼女は目を輝かせて言った。

 

「これだ!色んな謎が解けるかもしれないぞ!。」  

 

ああ、おめでたい人。いくら古代の記憶を強く持っているからってオカルト雑誌のパワーストンを欲しがるなんて…。

 

私は気の毒だと思いながら首を振った。

 

しかし、アキは熱く言った。

 

「やってみなきゃわかんねーだろ!。」

 

熱くなるのそこなんだ!

 

シルヴィーが話に入って来て、じっくりと見て言った。

 

「このドラゴンアイで運気が上昇するか、実際に計測してみましょう。」

 

そう言ってガイドで稼いだお小遣いを、全部ドラゴンアイズに使ってしまった。 

 

 

ドラゴンアイの噂は狭い校内にあっと言う間に広まった。

 

今日は、その開封式である。

 

通販サイトの派手な段ボールから、桐箱が取り出されると、それを見に来た生徒数名があっと驚いた。

 

シルヴィーはビデオカメでその様子を撮影している。 

 

アキが桐箱を慎重に開けながら言った。

 

「開ける、開けるぞ!。」

 

アキはピンポン玉ほどの球体を高く掲げた。

 

ドラゴンアイだ!

 

 それはワニの目によく似ていて、金緑色で細長い瞳孔の模様があった。

 

 なんだか怖い、こちらを見つめているような感覚がする。

 

シルヴィーがドラゴンアイズにビデオカメラをズームした。

 

そして、彼女は言った。

 

「なぜか光っている…。」

 

ドラゴンアイズ自体が光っている?まさか…。

 

エクリプスの指輪の時と同じだ。

 

 確かになぜか光っていた。

 

電源もない、蛍光塗料でもなさそうだし…。

 

集まったみんなが少しどよめいた後、少しずつの場を去っていった。

 

シルヴィーが笑顔でこちらをまっすぐに見て嬉しそうに言った。

 

「では、私たちオカルト研はこのドラゴンアイズの分析をしましょう!。」

 

 ✙

 

オカルト雑誌のカタログによると、ドラゴンアイズの本体はガラス玉で中に竜の鱗が入っているらしいけど…。

 

竜なんているわけないし、ただのガラス玉に決まっている。

 

アキはドラゴンアイを持ち上げて窓を開けて太陽にすかした。

 

 しばらくずっとそれをみつめていた。

 

 私はアキに聞いた。

 

「なんか見えた?。」

 

するとアキは答えた。

 

「割ろう!中から何か出てくるかもしれないぜ。」

 

なぜ!?

 

 シルヴィーが動揺してアキに質問した。 

「ア…アキさんは魔性の気配を感じているんでしょうか?。」

 

そう言うことか、まさか…。 

 

 私が見たゴモラの記憶の、赤い髪と瞳のジュウツーはアキの先祖なのだろう。 

 

アキはきっと天使と人の間、ネフィリムの血を引いてる。 

 

だから太陽の戦士の力も持っていて、魔性、悪魔の気配を感じているのだ。

 

 アキの中に、自分の事を”おれ”と言う別人格、”ソレイユ”!があることも明らかだ。

 

彼についてもとても気になっている。

 

私が予想するにあれはきっと…太陽の使者を自称した大昔の支配者か、堕天使の怨念だ。

 

 

数日経ったもこのままではどうしようもないので、オカルト研の三人で話し合った結果、ドラゴンアイズを割って何が起こるか確かめる事になってしまった。

 

さあ、何が起こるか確かめてみよう。 

 

割る時にガラス破片が飛び散るといけないので、ポリ袋に入れた。

 

 アキがその袋を床に置いたら、シルヴィーがハンマーを振り上げた。

 

 「じゃあ、いきますよ。ゾクゾクしますね!フヒヒヒ・・・。」

 

 私は上を向いて思った。怖いな、きみは…。でも、もう早くやってしまって!

 

シルヴィーが勢いよくハンマーを振り下ろすと、ピシッと言う音をたてて、ドラゴアイ、ガラス玉に亀裂が走った。

 

「アア。」

 

 と声が聞こえた、男と女が同時に言ったようだった。

 

 私は、二人に聞いた。

 

 「今、何か聞こえなかった??。」

 

 シルヴィーが黙って頷く。

 

 そしてすぐにアキが答えた。

 

 

 

「やはりこいつ、罠らしいぞ。」

 

 袋の中でカサカサと音がして、中で何か動いている様子だ。

 

 そして風船のように膨らんだかと思えば怪しく紫に光り、宙に浮かび大きな音を立てて破裂した。

 

 すると霧が起こって、部屋の中が殆ど見えなくなった。

 

 アキが言った。

 

 「ああ、来るぞ。」

 

 来る…何が!?

 

 徐々に霧が少し晴れると、なぜかそこに、大きな”何か”がいた。

 

 ”何か”と言うのは、得体のしれない動物だ。霧が更に晴れて来た。

 

 まず、見かけからしてたぶん爬虫類だ。

 

爬虫類とは、這いつくばると言う意味らしいけれど目の前のこいつは、蛇の様な長い体を持ち、ワニの様な皮を纏っていて、二本の足で立っていた。

 

 小さな前足が前向きにあって、細長い頭部には大きな目玉と、口がある。

 

 それは荒い息を立てて、こちらを見ている。すると急にだるさを感じた。

 

 なんだか、体から気力を奪われてゆく気が…。

 

 アキが身構えて言った。

 

 「いつの世も影から人を操り、人を惑わす、人類の永遠の敵、サタンのお出ましだ。」

 

 サタン、本物の…悪魔。

 

 シルヴィーがカメラを回しながら言った。

 

 「どこかで見覚えが…。思い出しました。三畳紀の原始的な恐竜目にとても良く似ている…生物の授業で習いましたよね?近世ヨーロッパで恐竜の化石が発見された時、科学や宗教で様々な論争があったらしいですね。絶滅したワニの仲間だとか、それが悪魔の仲間だとか…DIABLE(悪魔)DINOSAURE(恐竜)DRAGON(竜)…そうですねDとでも呼んでやりましょう。」

 

なるほど,ドラゴンのモデルも爬虫類、中国では恐竜の化石が漢方にされていたとも聞く。

 

 

 

こいつは、悪の化身、ドラゴン!

 

 アキの背中が光って太陽の絵が表れた。

 

 そして神話の時代の文字が浮かび上がり、ネックレスのように連なった。

 

 アキの手には、いつのまにか前と同じように金色の派手な刀が握られていた。

 

 Dがワニの様な鳴き声をあげて、アキの方を見る。

 

アキはその目を直接見ないように、刀に反射したDの姿を見ていた。

 

 その瞳孔は開いたり、閉じたりしていた。きっとあいつはものすごく視力が良い。

 

すると、廊下の方から声が聞こえて来た。

 

生徒が三人、オカルト研の前の廊下を通過しようとしていた。

 

 Dが彼女たちを見た途端に三人は一瞬で気絶してしまった。

 

シルヴィーが早口で淡々と言った。

 

 「ああ、目が合うと倒れるようですね、死ぬかもしれませんよ。悪魔の一種の特徴ですね。」

 

 私は倒れた三人に駆け寄った、たしかこの子たち美術部の一年生だ。

 

 揺さぶっても目を覚まささない、脈はどうだろう…。

 

 一人の手首に指を当ててみると、脈がとても弱くなっていた。

 

 私は驚いてつぶやいた。

 

 「えっ…なんで…な…。」

 

 その時、私の指輪が弱々しく光っている事に気が付いた。

 

 Dを目の前にして、私の力が目覚めつつあるらしい。

 

 神様、モンペール…

 

私に聖なる力をお与えになったと言うなら…今、使わせてください!

 

聖なる力…出ろっ!

 

私はエクリプスの指輪をはめた。

 

 

そしてDに右手を向けて叫んだ。

 

 「Sainte Puissance!。」

 

 途端に私の右手が白く光った。

 

Dに向かって光を伸ばすと、Dの体はのけ反った。

 

 アキが叫ぶ、アキの中にあるネフィリム、ソレイユが叫ぶのだろう。

 

 「こいつらはただ倒しても死なない、実体がないんだ!合わせ鏡の中で姿を映しとり、祈りを唱えろ。」

 

 どうやらそれはD封印する方法。

 

 Dに実体はないのか、合わせ鏡の中で祈りを唱える?いきなりそんな無茶な…。

 

 シルヴィーがとっさにビデオカメラのライトを光らせて言った。

 

「アキさんは剣で、このライトをマキさんの方に反射させて、マキさんはDをスマホで撮影してください!。」

 

 オッケイ!トライアングルフォーメーションで封印だ!

 

シルヴィーがライトをアキの方に向ける。

 

 アキが刀でカメラのライトをこちらに反射させた。

 

 私もスマホのフラッシュを付けてDのビデオ撮影を始めた。

 

 そして私は祈った。

 

 「Sainte-Marie, l'ange Michel et le diable déchaîné sont scellés pour toujours au fond de l'enfer.。」

 

み母聖マリア、大天使聖ミカエル、暴れ狂う悪魔を地獄の底に永遠に封じてください!

 

 そしてアキの指先が背中と同じ色で光り、宙にDの姿を光で描き始めた。

 

そしてアキとシルヴィーが同時に言った。

 

「AMEN!。」 

 

フワッと、光が起ると、Dの姿は消えた。

 

私のスマホに、Dの映像が保存されると、その画面のままフリーズした。

 

 

壊れた…?いや、それよりも今は、倒れた人の救護だ!

 

アキが慌てて言った、背中の光と刀はいつのまにかに消えていた。

 

「倒れた奴らを、はやく修道院の医務室へ!。」 

 

 

 教職員と生徒達に手伝って貰って、担架で倒れた子を運んだ。

 

 修道院に着くと、マスールたちが動揺していた。

 

それも当然だ、健康な三人の生徒がいきなり倒れてしまったからである。

 

 でもなぜだろう、中庭に出てほっと一息付くと一仕事終えたようなすがすがしい気分になった。

 

 アキもシルヴィーも結構いい顔をしていた。

 

ふわり、とやさしく心地よい風が吹いたと思ったら、青白い光が見えた。

 

 風の天使、ツバサくんだ。ツバサくんは宙に姿を現して、ふわっと地に足を降ろして言った。

 

 「強い子たち、ありがとう…。」

 

 シルヴィーは急にかわいらしい調子でツバサくんに挨拶をした。

 

 「まあ、ごきげんよう、ツバサくん。気持ちの良い風が吹いたと思ったら、あなただったんですね。」

 

つづいてアキも挨拶をした。

 

 「天使じゃん、初めて見た。アキだ、よろしくな。」

 

 そしてツバサくんは言った。

 

 「この時代、この街での悪との戦いの戦士に君たちは選ばれた。もちろん、ぼくも手を貸すつもりだ。」

 

 ドラゴンアイズを送って来たやつらは何者なんだろう、悪との戦い方はこれでいいのだろうか…。

 

ツバサくんに相談したいことは沢山あるけれど、今は、今だけは、気持ちの良い風に吹かれていたかった。

 

 

 

シルヴィーが急に、場を離れた。

 

「ちょっと待っていてくださいね…。」

 

 

 シルヴィーがほんの少し場を外して戻って来た。

 

すると、彼女はツバサくんにストローを指したカップを渡した。

 

飲み物をあげたかったんだ、でも天使って水飲むのかな。

 

ツバサくんのストローから、ぷうと空気の泡が出て来た。

 

ああ、シャボン玉か。ほほえましいよ、まったく。

 

私、Dは怖い、それを私たちに送って来た奴は、もっと怖い。

 

でも、みんなの平和を守るために、私がんばるよ…。

- A suivre !

スマホやっぱ壊れちゃったみたいだ!

 

ガーン!

 

Epsode 6.(イピゾ・シス)

 

Mémoire de costume de marin.

 

(セーラー服の記憶)

 

 

 ボンジュール、マキです!

 

さあ、夏休みが始まりました!

 

最近は音楽部のアンサンブルに、オカルト研の活動と毎日忙しく過ごしています。

 

この間も、アキとシルヴィーと三人で深夜に天体観測をした。

 

それは地球に急接近している彗星を観測する目的だった、そしてそれは地球に落ちなかったらしい…セーフ!

 



私とアキはいつもの通り、港の通りでフランス語の観光ガイドを請け負っていたわけだ。

 

一日に二組を案内出来れば良いほうで、大抵のお客さんは私達に千円札を二枚ずつくれる。

 

こんな所、学園のマスールに見つかるとちょっと心配されちゃうけどへっちゃらさ!

 

おばあちゃんの説教なんか聞きたくないよ〜だ!

 

ん、あそこのベンチに見慣れないセーラー服のマドワゼルが長い事座っている、いっちょ話しかけてみよう!

 

アキが管楽器ケースを担いだ女の子に寄っていく、その顔を覗き込んで言った。

 

「どこ高だ、おめー。」

 

あきこ!田舎の不良みたいだからやめようね!

 

すると女の子は答えた。

 

「か、勘弁してくださいよ…お金は持ってません。」

 

え、お金は持ってない?家出だろうか、心配になる。

 

私は彼女に尋ねた。

 

「お金がないと言うのはどう言うこと?。」

 

吹奏楽部の合宿から抜け出して来たんですよ…。」

 

大変だ!

 

まずは自己紹介といこう。

 

「あたしマキ、よろしく。こっちは、あきこ。アキって呼んでやって。」

 

 

と言うわけで、私とアキは家出少女を保護して、聖エルモ学園のオカルト研の部室まで連れて来た。

 

彼女は赤い眼鏡が可愛くて、年は私と同い年だ、そういえば、名前はまだ聞いていない。

 

学園の寮に住んでる愛花さんがやって来て、冷たいジャスミンティーを用意してくれた。

 

愛花さんの作るハーブティーは本当に美味しい。

 

「S'il vous plaît.(どうぞ)。」

 

と、それぞれに配ってくれた。 

 

さぁやは、不思議そうに首を傾げて言った。

 

「しるぶぷれ?。」

 

ジャスミンティーが珍しいのだろうか…。 

 

かわいいグラスに注がれたジャスミンティーの中で氷が踊る。

 

愛花さんは何か思い出してハッとなって言った。

 

「C'est une école française!。」

 

さぁやはさらに首を傾げて言った

 

「は?。」

 

なるほど、フランス語を聞き慣れなかったのか。

 

そこにシルヴィーがやって来て言った

 

「ボンジュール、みなさん。あらそちらは??。」

 

さぁやは目を丸くして言った。

 

「あ!ボンジュール…フランス語。ああ、なんか欧風かと思ったら…私の好きなお嬢様学校のノベルっぽいと思ったらそう言うことでしたか…いえ、こっちの話。」

 

アキが氷をかじりながら、さぁやに言った。

 

「今時、ごきげんようなんていわねーぞ…まあ、見てけよ。行く所ないんだろ。」

 

私達は中庭に出た、すると生徒数名がビニールプールを用意して水鉄砲で遊んでいた。

 

さぁやが腰を抜かしそうになって、よろめいて言った。

 

「じ、自由ですね…わ。」

 

 シルヴィーは微笑んで爽やかに言った。

 

「かりそめの自由、夏休みですもの…あそこの皆さん寮生なんですよ。外から人が来ると喜ぶので話してあげてください。」

 

アキが続けて言った



「ここはまあホント少年院と言うか、児童施設と言うか、まだこの国に馴染めない奴らとか、マキみたいに素行の悪いやつとかな、いっぱいいるぞ。」

 

さぁやは困った様子で、ため息をついて言った。

 

「ああ、私、なにやってるんだろう…合宿先で脱走しちゃって!。」

 

マスールの中で一番おばあちゃんの、マスール・ルイーズがやって来て、さぁやの荷物を指差して言った。

 

「そらラッパじゃないかい、私の初恋の人もね軍隊のラッパ吹きでね。」

 

 

一同はさぁやを案内しながら、マスール・ルイーズの昔話を聞いていた。

 

私達は中の部屋を、ひとつ、ひとつ、さぁやに紹介するのだった。

 

実は、聖エルモは新入生の確保に苦労しているので、見学者への案内はとても丁寧だ。

 

さぁやはホールのタペストリーを見て、立ち止まった。

 

聖エルモ宣教会の聖人の一人で、エルモ・ニコラウスと言う人が描かれている。

 

彼は、その昔、宣教のための航海で船が竜に襲われた時、トランペットを吹いて聖なるツボに竜を封じたと言う。

 

マスール・ルイーズが遠い目で言った。

 

「私の初恋の人も海軍のトランペット吹きで…大戦でね…。」

 

アキが何度も聞き飽きたように言った。

 

「はい、そーかい。」

 

私もその話、何回も聞いたけどね…。

 

 学園のどこかに、竜を封印した壺があると言う噂もある。

 

私達の身の回りに次々と起こる不思議な事と何か関係があるのだろうか…。

 

 ✙

 

さぁやは、修道院で私達と夕食を共にした。

 

私は今日あったばかりの彼女を他人と感じなかった。

 

少しだけルヴァンを飲んだ私とさぁやは、夜風にあたって涼んでいた。

奥の林からフクロウの声が少しだけ聞こえてくる。

 

さぁやは言った。

 

「いいよね、マキは…こんな自由でキレイな所にいて…。」

 

さぁやの住んでいる場所ってそんなに都会なのだろうか。

 

息苦しくて、自然がないのだろうか。

 

見上げると満天の夜空が輝いている。

 

音楽部の顧問のカーミラ先生が、ホタルをカゴに入れて取って持って来てくれた。

 

ホタルは弱々しく光っている。

 

しかし、シルヴィが来てホタルを持っていってしまった。

 

そして振り返ってこちらを見た。

 

「ふふふ、これでなにかわかるかもしれません。」

 

わたしは、さぁやを見て聞いた。

 

「おもしろいでしょ?。」

 

さぁやは言った。

 

「まあ、だいぶ………吹奏楽って厳しい世界なの、最初は楽しかったんだけど、続けているうちに部内の空気も悪くなって来た。」

 

私には全く分からない世界だ、子供の頃からやんちゃばかりして来た私には真剣に部活動、特に厳しい吹奏楽に挑戦するなんて気持ちはたぶん分からない。

 

私はさぁやに言った。

 

「やめちゃえば、向いてなかったんだよ〜!。」

 

さぁやはしばらく考えた後答えた。

 

「う〜ん、そうかも!。」

 

 

さぁやは部活の合宿ではなく、実家に戻ることになった。

 

彼女のこれからの幸せを願っている。

 

もしかしたら、さぁやは聖エルモに転入して来るのだろうか…。

 

その答えは神様だけが知っている。

 

モンペール、あなたの庭で暮らす子羊たちに

 

いつか広い世界を見せてください。

 

そして新たに仲間を迎える事があればその友情を強めてください。 

 

- A suivre !

ま、転校してくるパターンだな!

 

Epsode 7 (イピゾ・セッツ)

 

Ombres de soleil et de lune. (陽と月の影。)

 

 

ボンジュール、八月になりました!

 

マキです!

 

モンペール、私は夏休みの毎日を楽しく過ごしています。

 

この間なんてオカルト研のメンバーで海に行ったら、アキがスクール水着を着ていたのです!

 

さぁ、今回も始めるぞ!

 

 

まだまだ夏休み、でも時間があると将来が心配になる時もある。

 

今夜は月蝕(エクリプス)だ、オカルト研のメンバーは月蝕を観測するために今夜、学園の中庭に集まる。

 

マスールにもそれぞれの保護者にも事前に連絡済み、我ながら真面目である。

 

おやつと虫除けスプレーを持って家を出た。あちこちの軒先に望遠鏡を持った人がいる。

 

いつもの坂道を駆け上がって学園に付き、すぐ中庭に入り、アキとシルヴィーを見つけた。

 

アキはいつもの作務衣みたいな服、シルヴィーはサマードレスだった。

 

二人の対照的な姿が面白くて、私は小さく笑った。

声をかけると、シルヴィーが振り返って月を指差して言った。

 

「みてください、月と太陽が重なってきましたよ!。」

 

本当だ、月蝕を見るのはあの時、ゴモラの夢の時以来だ。

 

続いてアキが言った。

 

「何か恐ろしいことが起きる予感がしている…。」

 

突然に眼の前が青白く光り、男の子が現れた。

 

風の天使、ツバサくんだ。

 

現れるなりアキの方を見て言った。

 

「それ、あたるパターンです。」

 

風の天使は空気を読むのも上手いらしい。

 

 

しばらくすると月と太陽が完全に重なった。すると光の輪が出来た。

 

ダイヤモンドのリングと呼ばれる指輪のような光の輪だ。

 

あれ、私の手元にも光が…。なんと、私の左の指にリングのあとが輝いている!

 

それをアキとシルヴィーに見せた。二人とも驚いている。

 

そして私は願った。

 

「守護の天使とマリアさま!この謎に答えをください!。」

 

すると、前にリングを調べだ時と同じように、目の前の景色がゆがみ始めた。

 

 

気が付くと、私はゴモラの王宮にいた。袖元を見ると着ているは絹の衣だ。

 

陽が射しているから今は昼間なのだと解る。

 

おや、アキの声がする…?

 

「姫殿下、こちらにおられたか。」

 

あれはアキじゃない、髪と瞳が赤いからジュウツーだ。

 

ジュウツーは膝まづいて握り手に平手を合わせた。

 

「先日はエクリプスの襲撃をなんとか防げましたが、また次もありましょう。」

 

そうか、これはこの間の記憶の続きだ。

 

私の中にある旧約聖書に登場する不信心のせいで神様に焼かれたゴモラの記憶…。

 

そうだ、この間のゴモラでの月蝕の夜、エクリプスが襲って来たのだった。

 

ジュウツーは私に言った。

 

「姫殿下、次またエクリプスが襲って来た時に備えての考えがあります。」

 

私はジュウツーに返事をした。

 

「許す、申してみよ。」

 

ジュウツーは語り始めた。

 

「我が国の占い師や、知恵者が申すには、エクリプスは破壊の天使であるそうです。」

 

…破壊の天使?

 

確かにそう考えれば納得する。

 

このゴモラの街は神に背いているから、破壊の天使に焼かれるのか。



「そして、それを防ぐ方法、我が王国の真祖、太王君、祖霊英雄(ソレイユ)の武具と玉璽(ぎょくじ)を王廟(おうびょう)より持ち出すのです。エクリプスに対しての最高の武器となりましょう。」

 

ぎょくじ…って漢委奴国王印みたいな王様のハンコだったはず。

 

ソレイユ、そっか…。

 

ソレイユと名乗ったアキに取り憑いていたのは、ゴモラの真祖、堕天使と人の間に出来た者の子孫、祖霊英雄の魂だ!

 

私はジュウツーに答えた。

 

「いい考えだ、祖霊英雄の王廟に参ろう!。」

 

 

王宮の最奥部に祖霊英雄の王廟はあった。

 

王廟は朱色に塗られた木で組まれ、黄金の飾りが施してある。

 

王廟の門は固く閉ざされている。

 

官女たちが教えてくれた古くからの言い伝えによると、許された者のみがその扉を開けられる、過去に一人しか開いたものはいない。

 

ジュウツーが、その門に手を当てて言った。

 

「姫殿下、門に二人の力を送りましょう、手を当てて念じてください!。」

 

よし、わかったぞ!二人の声が偶然に合わさった。

 

「開け、祖霊英雄王廟!。」

 

ゴゴゴ!と低い音を立てて、王廟の門が開いた。

 

中は細かい宝飾で飾られていた。

 

すべてが古い時代の物に見えるけど、ほとんど劣化していない。

 

私はジュウツーに言った。

 

「美しいな…しかし、勝手に入って良かったものか。」

 

ジュウツーがあわてて叫ぶ!

 

「姫殿下、伏せて!。」

 

ジュウツーが私を押し倒した。

 

私はハッとなる、ジュウツーの赤い瞳がこちらを見つめているのだ。

 

でも、伏せてって言ったよな、今。

 

ガツガツ!

 

と王廟の木柱に弓矢が刺さっていた、その弓矢は夜と影の色だった。

 

私と正反対の闇の力…この気配、ジェンツイーか!

 

すると女の高笑いが聞こえた。

 

「ははは、野ねずみが!見事騙されたものじゃ!偽物!妾は本当の戈莫拉の姫、真希(ジェンツイー)じゃ!。」

 

本物の…ゴモラの姫!ジェンツィーは聖エルモ学園の制服を纏っている。

 

あの時だ、私が初めてこの世界に来て私に指輪を渡した、ゴモラの本物の姫君だ!

 

闇のオーラを背負っている…、あれはきっとチカラだ。

 

ゴモラネフィリムの血を引く者のチカラだ!

 

ジェンツィーが月の影を思わせる闇の弓矢をこちらに向けた。

 

ジュウツーがうろたえる。

 

「姫殿下が二人おられる…!。」

 

ジェンツイーが強い命令口調で言った。

 

赤毛の娘や、ジュウツーとか言うらしいの。妾の偽物を殺せ、そうすれば王廟に勝手に入った罪は許してやろう!。」

 

私はジェンツイーに訪ね、問い詰めた。

 

「なぜ、あなたは私と入れ替わったの?なぜそうさせた!何が望みだ…!国を捨てて逃げたのか!?あなたよりも、私のほうがこの国の姫にふさわしい!。」

 

ジェンツイーは答えた。



「無論エクリプスから逃げおおせるためじゃ、お主は影武者よ!しかし使いの者が申すには、お前らも"賜物"の力があるようじゃ…殺して血を飲みその力を妾のものにしようと思うての…。」

 

外道、ジェンツイー!

 

ジュウツーはジェンツィーに剣を向けた。

 

「私を心に留めてくださったのは、この姫殿下のみ…たとえ本物であろうと貴様に国を収める資格はない。」

 

ジェンツィーは答える。

 

「面白い、なまくら一つで妾に歯向かうとは!。」

 

まずい、このままじゃ命のやり取りになる…!

 

その時だった。祖霊英雄廟の中央祭壇が強く赤く光った。

 

ジュウツーが刀をジェンツィーに放り投げると、ジェンツィーはそれを素手で上に弾いた。

 

刀は折れて刃先は天井に突き刺さった。

 

すると、どこからともなく声がした…。

 

「そこの赤毛の娘よ、高貴にして邪悪の血を引くものよ。王朝の危機だ。俺の依代となれ…玉璽を手に取れ…。」

 

これは、祖霊英雄の声だ、ジュウツーが答えた

 

「祖霊英雄大王君の仰せのままに!。」

 

ジュウツーが王廟の中央祭壇によじ登り祠に手をかけた。

 

そして朱鷺色の宝石をかかげた。

 

それは太陽の色に輝いていて、鳥の翼の形をしていた。

 

宝石には不思議な文字が浮かび上がっていた。

 

ジュウツーが叫ぶ!

 

「来られよ、英雄霊!。」

 

すると目の前がとても強く光った。

 

ジェンツィーが叫ぶ!

 

「なぜ…なぜ貴様の様な粗野な娘が、祖霊英雄の力を…!。」

 

ジュウツーが光の中から現れた。

 

その姿は、金色の剣を手にして、足元には炎が散らばり炎の袴を履いているようだ。

 

私は独りでにつぶやいていた。

 

「モン・ソレイユ…やっぱりあなたは私の太陽だ…。」

 

ジェンツィーが頭を下げて体を伏せた。

 

「祖霊英雄大君…命だけは…命だけは…。」

 

膝まづくジェンツィーをよそに、ジュウツーが王廟から出ると、外には多くの武漢、文官がいて一斉に頭を垂れた。

 

そしてひれ伏すジェンツィーを指さした。

 

「そこの姫殿下の偽物を捕らえろ!。」

 

武漢がジェンツィーに迫ると縄で縛り上げて連れ去ってしまった。

 

 

あっと言う間にジュウツーに宿った祖霊英雄(ソレイユ)はゴモラの王として即位した。

 

それは蘇ってからわずか一日の出来事だった。

 

宮中では前にも増して宴の騒ぎで、次のエクリプスとの戦いでの勝利は間違いないと、皆が歓喜していた。

 

その日の夜、後宮の私の部屋に祖霊英雄がやって来た。

 

皇帝が後宮にやってくると言うことはつまり、その…。

 

ご寵愛を賜ると言うか、あれなのだろうか…。

 

多分、ジュウツーも祖霊英雄もアキだけどアキじゃない。

⓶⓶

アキの過去の記憶だ。

 

祖霊英雄は言った。

 

「本当の所、お前は誰なんだ。」

 

誰…誰と言われましても…私は少し悩んで答えた。

 

「私はマキと申します、別の世界から来ました。」

 

こう答えるしかない…。

 

祖霊英雄は答えた。

 

「やはりな…この世の者とは何か違うと思っていた…お前の世界の事を教えてはくれないか…。」

 

私はジュウツーに宿った祖霊英雄に私の世界の事を話す事にした。

 

「祖霊英雄大君…私のいた世界では、スマホとかゲームとかアニメとかがあります…この時代ほど争いはないけれど、小さな争いはあって、色んな機械もあって…。」

 

だめだ、上手く話せない!

 

ジュウツーに宿る祖霊英雄がこちらをまっすぐ見る。

 

彼は答えた。

 

「わからんな…。まあ、良い所らしい。エクリプスとの戦いが終わったら、このゴモラをお前の世界のように素晴らしいものとしよう。」

 

祖霊英雄大君…。

 

 

それから一月が過ぎて、私は祖霊英雄大君と多くの事を話した。

 

と言うかほぼ遊んでもらっていた。

 

祖霊英雄大君には本人の記憶はもちろん、ジュウツーの記憶も、歴代の宿主の記憶もあるそうだ。

 

蹴鞠や、詩、茶の席といろいろと楽しく、気がつけばまた宴の騒ぎばかりだ。

 

そして私は、その乱れた文化のせいでゴモラが滅ぼされる事を思い出した。

 

その日が遠くない事に気付いている…。

 

ゴモラの隣のソドムに心の清い旅人が来たそうだ。

 

きっと聖書の記述、ロトの一族がソドムに着いた記録と重なる…。

 

 

ついにエクリプスとの決戦となった。

 

牢に囚われていたジェンツィーは勝利祈願の生贄となった。

 

戦いの勝利を願うための、神…と言っても異端の神、すなわち悪魔の生贄にされて世を去った。

 

彼女の遺品に触れたものは、エクリプスに喰われると言う噂もある…。

 

彼女の遺品には指輪が多かったらしい。月齢の占いに使うものだそうだ。

 

その中のどれか2つが、私のもとにやって来た指輪なのだろう。

 

そして3日ほど後、ゴモラは戦火にまみれ、次々と勇姿は倒れた…。

 

宮殿も、王廟も、後宮も…跡形もなく神の聖なる炎で焼かれた。

 

ずっと昔にも同じような事があったと思い出した…。

 

私やアキは何度も神に背き、何度も滅ぼされて、その怨念と無念で、人に乗り憑って来た堕天使のような気がする。

 

燃え盛る炎の中、誰かが私の手を掴んだ…思い出せばアキだった…

 

「いい加減目を覚ませ!。」

ここは…聖エルモ学園の中庭だ。

 

空を見上げると日が昇りかけていた。

 

私は中庭のベンチに横になっている。

 

目の前にはアキ、シルヴィー、ツバサくんがいた。

 

アキの背中の方に、朝陽があって本当に太陽の翼のようだった。

 

私はアキに言った。

 

「私、長い夢を見てた…ずっと昔の記憶だと思う、ずっと昔の…。」

 

アキは答えた。

 

「私は何度でも君の目をさましてやるつもりだ。」

 

ツバサくんは私の背を見て言った。

 

「背中に…月に重なる太陽と、踊る人の影がある。」

 

モンペール、私、目覚めました。

 

それはきっと、今の世の悪と戦うために…。

 

- A suivre !

Epsode 8(イピゾ・ウィッツ)

 

 Sanctuaire des dragons.

(竜の聖域)

 

 

八月になった。

 

最近は毎日のようにアキとシルヴィーの三人で特訓をしている。

 

私達にだけ使える超能力の特訓だ、この力は昔から賜物と呼ばれているらしい。

 

今日も朝から夕方まで、市民公園や学園の中庭でDとの戦いの訓練をしている。

 

私達にはチカラを隠す能力、いわゆる結界の力もあるのだ。

 

だから、人前で使ってもそんなに気にされることはない。

 

アキが彼女の中にいる祖霊英雄を呼び覚まし、賜物の力を使った。

 

「さあ、こい稽古つけてやる!。」

 

私はこうしているうちに、いつの間にか、力を使うときに、普段とは違う服を纏っていることに気付いた。

 

それは昔の正装、狩衣に似ていた。

 

ツバサくんが言うには、賜物の力が衣になる時は、その人のイメージで形を成すらしい。

 

私に宿っだ力は、攻撃を跳ね返す能力。

 

私は気が付けばアキの放つ炎を弾き返せるようになっていたのだった。

 

他にも大抵のものは弾き返せるようになった、この間シルヴィーの投げるダーツも弾き返せるようになった。

 

とうやら私の能力は防御、月の力。

 

太陽の光を反射する月、地球に降り注ぐ隕石も受け止める月。

 

 

セミの鳴く朝、三人集まったらシルヴィーが何か資料を取り出した。

 

この間の開運アイテムのドラゴンアイの資料である。

 

開運とは名ばかりで、実際には悪魔が封印されていた。

 

するとシルヴィーはその資料の連絡先の箇所を指さした。

 

私はそこにある名前を読み上げた

 

「宗教法人 竜の教団?。」

 

竜の教団、ふざけた名前だ。いかにもカルトやマルチらしい名前だ。

 

シルヴィーは言った。

 

「この間、何故かこちらの会社の製品、ドラゴンアイから悪魔が現れた。そのことは皆さんの記憶にも新しいでしょう?しかし、その理由はわかりませんでしたね。」

 

ふむふむ、それで?

 

「実は今度、こちらに出向いて真相を確かめたいと思います。」

 

アキはしばらく考えてから言った。

 

「見つかった所でどうするんだよ。」

 

シルヴィーは少しうつむいて低い声で言った。

 

「D.DIABLEの出現がこちらの宗教法人の仕業だとしたら…。」

 

だとしたら…

 

「潰します。」

 

お、おお…

 

 

翌日、三人は長距離バスに乗った。

 

そして郊外の何もない山道でバスを降りた。

 

雑誌の応募用紙の住所に間違いがなければきっとこの先に…宗教法人 竜の教団はある。

 

雑誌とネットの資料によれば、設立は戦後間もなくで、ある神主が泉で竜に出会い、健康長寿の聖水を頂いて、それで各地の病気の人を直した事で竜神さまをお祀りする神社を作ったらしい…。

 

要するにたぶん新興宗教である。

 

歩き続けると、広い霊園と巨大な竜神の像が見えた。

 

間違いない!あの宗教法人独特の雰囲気…。

 

あの中には何かある!

 

アキが遠くを見るような目をして言った。

 

「勢いで来たものの、いざ乗り込むってなると、なんか気が引けるな。」

 

シルヴィーが水鉄砲を取り出して言った。

 

「いざと言う時はこれがあります…中は学園の聖堂の聖水なんですよ…ふふ。」

 

私は二人に返事をした。

 

「お…おう、とりあえず行くよ!。」

 

私達は建物の中に入ることにした。

 

鉄筋コンクリートの七階建てビルに、外国のお寺のような派手な飾りが沢山ついている。

シルヴィーが受付の女の人に歩み寄って言った。

 

「こんにちは、実は私達、こちらのドラゴンアイを購入しました所、竜の教団さんに興味が出まして…見学させていただきたいのですが。」

 

受付の女の人が、微妙にトロンとした目で嬉しそうに言った。

 

「まあー!嬉しいです、中を案内しますね!。」

 

 

竜の教団の内部はやや派手な色の床材や壁材が特徴で、中にある自動販売機の飲料などは誰も知らないようなローカルなものばかりだった。

 

所々にひっかき傷や、爬虫類のケージがあって、大きなリクガメが歩いてたりした。

 

竜って爬虫類なのだろうか…

 

受付にいた信者の女性が言った。

 

「続いて二階からは聖所になります、ここから先で見たことは決して他所に漏らさないように…まずはこちらにサインをしてください。」

 

来た、来た…!おそろしや!

 

シルヴィーがジェスチャーでしーっのポーズをする、これはきっと嘘をつくから黙っていてと言う意味だ。

 

偽りの連絡先を書くので黙っていてと言う意味だろう。

 

内部の二階はドラゴンアイの検品と箱詰めが行われていた。

 

中の作業をする人達は無口で、白ずくめに竜の模様の入った平安時代かいつかのような古風の服をしていた。

 

なんだか不気味で、生きているのか死んでいるのだかわからないようだ。

 

民話に出てくる白蛇のような雰囲気がある。

 

続いては三階に案内された。

 

広い講堂の奥には金銀の祭壇があって、何故かヘビ、トカゲ、ワニ、カメ、恐竜や翼竜もあって、いかにもあのDを送り込んで来た人たちの根城だと感じる。

 

四階は用務室だそうで、五階と六階は部外者立ち入り禁止らしい。

 

そして最上階の七階の扉が開かれた。

 

がらんとした明かりのない部屋に、一本の木があった。

 

あれはなんだろう、クリスマスツリーだろうか。

 

トロピカルな印象のその木はかすかに光っていて。

 

バナナのような果実が実っているのがわかった。

 

あれは…。

 

シルヴィーが眼鏡に手をかけて、フレームを人差し指と中指で何度かタップした。

 

きっとあれはメガネ型デバイス、心霊現象を測定できる。

 

X(イクス)サーチャーである。

 

材料と製造方法は不明、きっとゴモラの世界で手に入れた道具や材料を使ったのだろう。

 

シルヴィーが震えて言った。

 

「Arbre de vie?non...non...。」

 

Arbre de vie?...聖書に出てくる生命の樹?えっ!?どう言うこと?

 

シルヴィーはとても早口で推理を語った。

 

「あの木の根本にはアキコさんやマキさん、ツバサくんと同じエネルギー反応が見えます。もしかして…特別な賜物の力を持ってる人をおびき寄せて、彼等の糧となる特別な実のなる木の肥やしにしているのでは…罠を仕掛けて、おびき寄せて捕まえて…竜の教団と言うのも納得です、彼らは聖書のエバを誘惑した蛇の子孫です!。」

 

なんてことを、私とアキが驚き言葉をなくすと、案内の女性が手書きのメモを私に手渡した。

 

(お逃げなさい、あなたたちを逃します、どうか罪を背負い続ける私達を助けて)

 

彼らの中の何人かには罪を背負っていると言う自覚があるのか、悲しいことだ…。

 

彼女も犠牲のうちの一人で、囚われの身なのだ。

 

私達三人は怯えて、一斉にドアに向かって走り出した。

 

エレベーターのボタンをガチャガチャと押す!そして扉が開くと、その中にはDがいた。

 

私達がD..と呼ぶソレはDragon、Diable.Dinosaure,

 

竜、そして悪魔、恐竜の見た目をしている。

 

どうやら俊敏な小型の肉食恐竜のタイプだ…。

 

シルヴィーが水鉄砲を構えて、Dに聖水を吹きかけた!

 

Dは人間のようにうめき声をあげて苦しんだ。

 

そしてアキの背中が光ると熱が急に立ち込めてエレベーターの扉が溶けて、開かなくなった。

 

非常階段への扉は鍵がかかっている、どうしたらいいのか…。

 

アキが右手を天に掲げて数秒経つと、祖霊英雄の刀が現れた。

 

アキは剣を抜いて構えると、目にも止まらない速さで非常階段へのドアをみごとに切り裂いた。

 

切ったところが焼け焦げているのをみると、熱で斬ったようにもみえる。

 

アキは私とシルヴィーの手を引くと、一気に階段を駆け下りた。

 

一階ロビーまで着いても、まだ施設の人達が追い駆けて来た。

 

建物を出て、なんとか逃げ切り、寂しい商店街まで着いた。

 

そして一息ついたらシルヴィーが笑顔で言った。

 

「敵の正体がわかってきましたね!。」

 

アキも言った。

 

「ああ、悪くない偵察だった。」

 

そしてその時、目の前が青白く光る。風の天使ツバサくんが現れた。

 

「君たちのおかげで、一つ真実に近づいたよ!ありがとう!この時代、この地域の悪との戦いはきっとうまくいく。」

 

ツバサくんは本当に空気を読むのが上手くて、追い風を送ってくれるな!

 

シルヴィーがツバサくんにハグをした。

 

いつまでも中々離さないので、アキが言った。

 

「甘いものでも食べに行くか!。」

 

前向きだ!君たちは学生よりも戦士なのかもしれない。

 

- A suivre !

Epsode 9(イピゾ・ヌフ)

 

Esprit de feu et princesse.

 

炎の精霊とお姫さま。

 

 ✙

 

モンペール、夏休みももうすぐ終わりです。

 

私は今でもゴモラの夢を見ます。月の巫女、神への生贄にされた怨念でこの世界を支配したくなる…そんな夢を見ます。

 

これはきっとゴモラの姫巫女ジェンツィーと私の記憶が混ざりつつある証拠だ。

 

私はシルヴィーに何度かそのことを相談して、時々聖水を飲むことで症状を抑えています。

 

自分の中にある、もう一人の自分。破壊的な自分に負けるわけにはいかない…。

 

 気がつけば今、左手で字を書いていた。左手…?私は右利きのはずだ。

 

最近の日記を遡って読んでみると、アキの背中にあるソドムとゴモラの言葉の字があった。

 

筆跡はかなり達筆で、私の書いた物ではない事が確かだ。

 

左手が癖のように勝手に動き、かの国の言葉を綴っている。

 

私は本当はそれを読める気がして来た…。いけない、私…ジェンツィーに乗っ取られる?

 

ゴモラの姫巫女、偽物である私の代わりに生贄にされた本物の姫巫女。

 

彼女の遺品の、あのリングに怨念が残っていたのだ。

 

私の代わりに生贄にされたジェンツィーの遺品に宿る怨念が、私の身体を乗っ取る気だ。

 

そして左手が大きな二つの文字を書いた。これは、Oiの意味、そうだと言うことだ。

 

その時、目の前に青白い光が現れた。風の天使、ツバサくんだ。

 

ツバサくんがこちらを見て言った。

 

「être hors de contrôle...。」

 

être hors de contrôle…ええとbe out of controlだから…制御不能状態!?

 

「マキ、君は今、乗っ取られようとしている。賜物と呼ばれる力の暗黒面、つまり本物の堕天使のようにになりかけている!このままでは残虐な事や、世界征服でも始めてしまうよ。」

 

なんてことだ!早く止めさせて!

 

私の思念を読み取ってツバサくんが返事をした。

 

「オッケー!アキはもう寝てると思うからシルヴィーを呼んで来るよ。」

 

アキコあいつ、こんな時に限って!まあ朝方に家の和菓子屋さんを手伝うのだから仕方がないか…。

 

そしてツバサくん!君は本当に風の天使だ、空気を読む事にかけては右に出る人はいないよ。

 

ツバサくんの背中が青く光輝き、こちらに手を向けると私の身体の動きが収まった。

 

そしてツバサくんは、いつになく不安そうに言った。

 

「その場しのぎだから長くは持たない!シルヴィー早く来てくれ!。」

 

するとスマホにメッセージが来た。

 

(silvia:J'irai bientôt)

 

彼女も慌てているのか、おちょくっているのか、何故かフランス語で返事が来た、すぐに行きますと。

 

 

数分後、シルヴィーが来た。

 

真夏の蒸し暑させいか、いつもよりもうんとラフな格好だった。

 

彼女は着くなりすぐ水鉄砲を向けてこちらに言った。

 

「Ne bouge pas!Comptez trois.Levez la main!。」

 

動くな、手を上げろって意味だな。

 

私の右手はシルヴィーの方に向くと光を放った。

 

彼女はひらりと身をかわしたが、その光に触れた家財は一瞬で灰になった。

 

明日の朝、お母さんが帰っくるのに!怒られる!いや、それどころじゃないぞ!

 

その時、私はひとりでに話した、勝手に口が動いたのだ。

「ふはは、小娘!力を取り戻しつつある妾に刃向かうのか!ゴモラの姫巫女、ジェンツィーなるぞ!。」

 

やはり、私の体を乗っ取ったのはジェンツィーだ。 

 

「諦めろマキ…忌子や!お前の身体を乗っ取り、この世に姫巫女として君臨する!そして今度こそ世界を我が手に収めて天の国と神を滅ぼし妾が取って代わるのじゃ…シルヴィーとか言うたな、お前の命を吸い付くしてやろう。」

 

なんてこと!シルヴィー逃げて!ああ、でも助けて!

 

ジュウツーの真の目的は私の身体を奪い、世界征服をする事だった。

 

シルヴィーが冷静にグラス型デバイスのフレームをタップしてつぶやく…。

 

「Réponse radar…Cest Ange déchu.。」

 

え、なんだって?反応あり?Ange déchu…堕天使!?

 

そして聖水の水鉄砲を威嚇射撃した。

 

「ジェンツィー、トワァ数える間にその人の身体から出ていきなさい!。」

 

私の口はひとりでに動き、返事をした。そして左手を突き出すと、影がシルヴィーに向かって伸びる。

 

私は右手で聖なる力、左手で闇の力を使う体になったらしい。

 

口が勝手に動く。

 

「くくく、死ね!。」

 

シルヴィーの動きが止まる、これは月の影の力。

 

身体が勝手に動き私の歯がシルヴィーの首元に迫る。

 

ジェンツィーは生き血を、命を吸い取る気だろうか。

 

しかしその時、急に激痛が走った!なぜだ…!

 

私の意識がジェンツィーに飲まれつつある。私は今、シルヴィーを襲おうとした。

 

なぜだ…シルヴィーを噛む事が出来なかった。

 

「お答えしましょう、触れたら困りますからね。全身に祝別された香油を塗っておきましたよ。」

 

ぬかりないな、シルヴィー!

そして彼女は高速でこちらになにかを投げつて来た。

 

ダーツの矢だ!

 

私は月の光のチカラを発動して右手でそれを弾き返すも、シルヴィーはダーツの的を手に持ち全部受け止めて投げ返して来る。

 

一つ一つ手を封じられてゆく一方で、彼女の顔は光り輝くような晴れた表情を浮かべていた。

 

堕天使の末裔をいたぶる事に快感を感じているらしい。

 

シルベストラ、銀の星、魔除けの象徴の名に相応しい人物だ。

 

感心してる場合じゃない。

 

私の口はひとりでに動く、しかしだんだんそれが私の本心に思えて来る。

 

「どうじゃ、シルヴィーとやら!妾に仕えないか?お前は若くて美しく知恵も勇気もある!不死身にして世話係にしてやろう。」

 

ああ、私はいよいよジェンツィーに飲み込まれ消えそうだ。

 

私の意識は悪魔に飲み込まれそうだ。

 

シルヴィーは答えた。

 

「Je refuse!お断りです。」

 

私の力が最大限に発動したとわかった、私はひとりでに話している。

 

「どいつもこいつも!祖霊英雄陛下は私を愛してくださらない、マキの身体は乗っ取るのに苦労させられた。青い小僧に邪魔されるわ…お前を殺し、次は竜の教団とか言うやつらだ!あやつらの生命の樹も私がいただく…まがい物でもかまわん…みな…みな…許せぬ!双子の片割れ、マキ!捨て子にされたお前がなぜ私と入れ替わった…お前が死ぬはずが!。」

 

私とジェンツィーは、かつて双子だったのかな。片方が捨てられた、捨てられたほうが私?

 

ジェンツィーは姫巫女になって、立場が嫌になって逃げ出した。

 

私が姫巫女になって、破壊の天使エクリプスにおそわれて死ねのは私だったはず…。

 

ふたりは光と影だったのだろうか…。

ジェンツィーはもう一人の私。あなたは私だ。

 

ジェンツィーの怨念はなんて強いんだ。

 

シルヴィーが鞄からロザリオを取り出して、放り投げて私にかけた。

身動きが取れない…。

 

シルヴィーは妖艶に微笑んで言った。

 

「あなたに興味が出てきましたよ、ふふふ解剖するのもいいですね。」

 

な、そう言えば君はそうゆう所があったよな。アブないやつだ!

 

「科学と言う診察台に縛り付けて現実と言う名のメスをいれてさしあげますよ!うひひひ。」

 

怖い怖い…。こいつならホントにやりかねない!

 

「いえ、私があなたの言うように世界をこの手に納めるのも楽しそうですね!ニヒヒヒ。」

 

シルヴィーの顔は輝いていた、どうやら私はジェンツィーの魂ごとモルモットにされるらしい。

 

無念、短い人生だった。いや、ゴモラの記憶を入れたら結構長いか。

 

シルヴィーが私に聖別された油をかけて、聖水を口移しで飲ませた。

 

胃の中がひっくり返るような衝撃を受けて、頭が床に叩きつけられたのを感じた。

 

床が青白く光った、どうやらツバサくんの術で私は封印されるらしい。

 

意識が遠のいてゆく…。

 

 

目が覚めると明け方になっていた。

 

自分の部屋のベッドで寝ていたようだ。

 

天井を見上げると、うっすらとジェンツィーが見えた。

 

ジェンツィーはささやくように私に話しかけた。

 

「負けじゃ……負けじゃ……何もかも思い通りにはいかん。」

 

思い通りに行かない事は私にもある…力を制御できないこと…。

アキが私を見てくれないこと…。

他にもたくさんある…。だけど、力で無理に人を従わせるなんて…。

 

 

気がつけばシルヴィーはいなくなっていた。 

 

そして早朝、入れ替わるようにアキが来た。

 

シルヴィーから連絡をもらったのだろう。

 

アキは珍しく優しげに微笑んで私に言った。

 

「おはよう。」

 

私の力の影は落ちたらしい。

 

しかし、人が力を求めすぎると、この世に影を産むのだろう…。

 

だとしたら私は、それを照らしたい。

 

光ある所に影はある、だけど影は光がなくても影だ。

 

 

数日後、夏休み最後のオカルト研の活動日にアキは真っ赤な小鳥を連れて来た。

 

この間拾って来たらしい、優しいけど気まぐれなアキらしいと思った。

 

彼女の家が食べ物商売の和菓子屋さんなので学園のマスールにあずけるそうだ。

 

鳥籠に入った小鳥は、よく見るとインコの仲間らしい。

 

アキはそれをブリジッタ、炎の精霊の名前で呼んで可愛がっている。

 

「ブリジッタ、炎の精霊…心の炎…。」

 

アキとブリジッタを見ていると、アキの黒い髪は赤く、ブルーブロンズの制服が鮮やかな錦に見えた気がする。

 

私がジェンツィーと同化して一つになったように

 

アキの中の祖霊英雄もジュウツーも、一つになって来ているらしい。

- A suivre !

 

Epsode 10(イピゾ・ディス)

 

J'ai un nouvel ami!

(友達出来たよ!)

 

久しぶりのボンジュール、クラスのみんな、お元気でしたか?

 

ニ学期が始まった、この地方の夏休みは短い。

 

しかしその分冬休みは長いのだ。

 

そして、夏休みに出会った都会の子、さぁやが聖エルモに転校して来た。

 

彼女は非常に強い聖エルモの洗礼を受けた、つまりもはや暴力と言うほど、みんなに構われている。

 

それはテレビ出た少年院の新入りをかわいがかる様子にとても似ていた。

 

半年もすればフランス語を話せるようになってることだろう。

 

 

放課後、図書館を訪れた。聖エルモの図書館は修道院の隣にある。

 

殆どが宗教資料、聖遺物(レリック)郷土資料だ。

 

図書室と言うよりは半ば博物館になっている。

 

動物や鳥の剥製、植物標本、航海士の服、船で使われたトランペット。

 

旧カナの新聞、昔のミサの古典楽譜など、様々だ。

 

私はオカルト研で使う資料を借りるため、古生物学と悪魔崇拝と宇宙の本を借りようとしていた時だった。

 

一人、無心で郷土資料を読む、さぁやがいた。

 

細い目と丸い眼鏡とスラッとしたミディアムロングの髪、さぁやだ。

 

私はそれをおかしいと思った。

 

転校してから数日の生徒が、生徒が存在すら忘れている図書館を訪れて最上階である三階の一番奥にあるホコリかぶった郷土資料を見ているのだから。

 

私は思い切って声をかけてみる事にした。

 

「Que regardez-tu?。」

 

あなたは何を見ているの?

 

 

さぁやは昔の新聞を見ていた。

どうやら彼女はここ、聖エルモ学園の謎を解こうとしていたらしい。

 

確かに言われてみれば、この学園を中心にいろいろな事が起こっている。

 

歴史を辿ると一つの真実にたどり着くかもしれない。

 

さぁやが新聞を畳んで言った。

 

「マキと同じクラスで良かったよ。」

 

私は返事をした。

 

「そもそも一クラスしかないんだけどね。」

 

さぁやが話し始める。

 

「聖エルモの修道会の船乗りが、笛で竜を封印したって聞いたけど…それがどこにあるのか気になって調べていくうちに…。」

 

うんうん

 

「この学園に吹奏楽部はないのは、金管楽器の一種の音波が反響しておかしな音を鳴らすかららしいの。」

 

…え?

 

「戦後間もなくの記録…。」

 

…うん。

 

私は、さぁやの言葉を遮って言った。

 

「オカルト研においで!。」

 

 

私はさぁやの手を引いて、オカルト研の部室へと招待した。

 

中ではL'heure du thé.お茶の時間が行われていた。

 

ティと言っても和風だ。

 

アキの作ったお菓子は見た目が愛らしくてとても美味しい、今日は練り切りと桜餅だ。

 

シヴィーとアキが立ち上がって言った。

 

「ようこそ!。」

 

さぁやは戸惑いながら席についた。

 

そして私はアキとシルヴィーに言った。

 

「さぁや、学園の不思議とかいろいろ調べてるんだってさ。」



そして、さぁやは語り始めた。



「昔、修道会の船乗りが笛で竜を封じた。数百年後フランスで教育を開始、明治初期にこの校舎が出来た。」



うんうん、みんな知ってる。



シルヴィーが目を輝かせ、メモをしながら言った。

 

「それで?それで?。」

 

アキは、さぁやと私の分のお茶の準備をしながら静かに聞いていた。

 

そしてさぁやは、とても古い新聞を次々に取り出して言った。

 

(軍部、H市ノ学園ノ金管楽器押収ス)

 

(軍艦H沈没、楽器ノミ返…)

 

(H市、聖エルモ学園ニテ演奏会オコナワレルモ集団幻覚…)

 

なんて言うこだ。聖エルモ学園にとって吹奏楽は忌まわしいものだったらしい。

 

昔、軍隊に楽器が押収されて海軍で使われて、なんとか戻って来て、それをこの学園で使われたら恐ろしいことが起こったらしい。

 

 

オカルト研は、さぁやを加えて四人になった。

 

四人は、聖エルモと吹奏楽の関係について調べていくうちに、昔、修道士が竜を封印した事に全ての原因があると思うようになった。

 

竜の存在に魅入られたら、ドラゴンアイの二の舞になりそうだけど…

 

魔性の気配が高まる満月の夜、私達は学園の中庭に集まった。

 

シルヴィーがカメラの接続されたドローンと白い鳩を用意してた。

いざと言う時のおとりにするらしい。

 

アキは祖霊英雄の刀を敵が現れる前から準備していた。

 

いくら待てど竜の気配はないので、私達は寮のさぁやの部屋でパジャマパーティをしていた。

 

ややレトロなゲームが盛り上がって来た頃、低い唸り声が聴こえて来た。

 

シルヴィーは機材でそれの録音をした。

 

どうやら噂は本当だったらしい。

 

学園のどこかに竜が封印されている。

 

さあ、これからどうなっちまう!?

- A suivre !

Epsode 11(イピゾ・アンズ)

L'ombre de la mascarade.

 

(仮面舞踏会の影)

 

 

モンペール、十月になりました!ブドウ収穫祭が行われ、小さいマルシェが開かれました。

 

仮面舞踏会のためにダンスを練習する毎日です。

サスペンスの見すぎでしょうか、私は舞踏会の日になにか恐ろしいことが起きる予感がしています。

 

une.due...une,due…

 

ステップを覚えなくちゃ。

 

私は去年に続いて、アキと踊る気まんまんです。

 

 

そんなある日、寮生の一人が突然に倒れた。

 

もしやD、DIABLE.悪魔に襲われたのだろうか…。

 

誰に聞いても詳しい事はわからなかった。

 

私の身体がジェンツィーに乗っ取られた時、シルヴィーの魂を吸い取ろうとしていた事を思い出す。

もしかすると…かつての私のように少女を喰らう怪物がいる?

 

もしかしたら私のような堕天使に近い人間だったりして…。

 

疑い出すとキリがないのだけど…。

 

噂は独り歩きし、襲われた生徒に面白おかしい話がついていく。

 

私達オカルト研は一つの怪奇的な伝説の始まりを見た気がしたわけだ。

 

 

放課後オカルト研の活動中にアキがだるそうに言った。

 

「そんでど〜するよ。」

 

ダンスレッスンのせいで脚が痛いらしく、軽く柔軟をしていた。

 

シルヴィーとさぁやは古典的なドレスの本をじっと見て研究していた。

 

私はなんとなく言ってみた。

 

「悪いやつがいるかもよ、吸血鬼とか。」

 

みんなが微妙に嫌そうな反応をし、シルヴィーが少し考えて言った。

 

「確かめましょう。」

 

 

魔性との対決は決まって満月の夜だ。

 

オカルト研の四人はありったけの装備を用意して、寮のさぁやの部屋に立て籠もった。

 

私達は静かに、だけど賑やかに色々な事をして過ごしていた。

 

さぁやの部屋で飼う事になった小鳥のブリジッタも機嫌が良さそうだ。

 

突然、悲鳴が聞こえた。

 

表に出てみると黒く長い影が見えた。

 

それは巨大な蛇の首のようだった。

 

あたりをライトで照らしてみると、倒れている生徒を二名を発見した。

 

倒れている二人を助けたいと言う思いと、二人で何をしていたんだろうと言う思いが頭をよぎった。

二人とも意識はあるようだ。

 

 

すぐに愛花さんがやって来た。

 

それぞれ手分けして、倒れた二人を修道院のベッドまで運んだ。

 

愛花さんが倒れた二人をみて、私達オカルト研のメンバーに言った。

 

「二人共、今朝までとても元気だったのに…みんな今日はもう帰りなさい。」

 

修道院の廊下でさぁやが言った。

 

「学園の記録をみるとこう言うことは初めてじゃないんです。」

 

アキが静かに驚て言った。

 

「ああ、私が入学してから4回目だ。」

 

シルヴィーがうなずく。

 

私も記憶をたどった、確かに4回目だ。

 

竜の伝説、怪しい黒い影、生気を吸われて倒れる生徒、真っ先にかけつける生徒会長…

 

一番怪しいのは愛花さんだ。

 

 

ブドウ祭りで舞踏会と言う語呂の良い日だ。

 

立食とダンスが行われている。

 

聖エルモ学園が一年の間で一番お嬢さん学校らしくなるわけだ。

 

みんな借りて来たようなドレスを着て、ちょっとおぼつかない立食をしていた。

 

この日のために何度も練習したのに。

 

やはり普段やらないことは中々難しい、しかし非日常と言うのはそれだけで楽しい。

 

私もついこの間、もう遊ばないゲームソフトを売って赤いドレスを買った。

 

そういえばアキはどこに行ったんだろう…。

 

私は君とダンスがしたくて、男性のステップも女性のステップもしっかり覚えてしまったんだぞ!

いやいや、自分は一体何を考えてるんだ。

 

一回落ち着こう…。

 

生徒の何人かがアキを探しているらしい。

 

急ごう!

 

私はヒールの高い靴を脱いで、校舎を早足で駆け回った。

 

「あ〜き〜こちゃん!あっそびましょぉ〜!ってな〜わ〜!あ〜もう!。」

 

演劇部の部室からアキ、あきこちゃんの声が聞こえる。

 

「なんでこんなの着なくちゃいけないんだよ。」

 

演劇部のみつきさんの声も聞こえる。

 

「でも、衣装忘れちゃったんですよね!今日パーティだってさんざん言ってたでしょ。」

 

演劇部はアキに何を着せたんだ。

 

中に入って見ちゃえ!

 

演劇部のドアを開けると、中には海軍将校の白蘭服のアキがいた。

 

私はその場で見惚れると同時に心の中で思いきりガッツポーズをして言った。

 

「やったぜい!じゃなかった。みんな待ってるから行くぞ!。」

 

アキが返事をした。

 

「ええ、では参りましょうか。お供させていただいます、ハッハッハ。」

 

誰だお前!

 

このあとちゃんと二人で踊れた、一応!

- A suivre !

Epsode 12(イピソ・ドゥズ)

Reine du ciel.

 

天(あめ)の后

 

あめのきせき

 

てんのもん

 

うみのほしと

 

かがやきませ

 

アヴェ アヴェ アヴェマリア

 

ああ、マリアさまのような綺麗な心を私にもください。無理だと思うけどね!

 

モンペール、待ちに待った修学旅行がやって来ました。

 

世間離れした聖エルモ学園にも修学旅行はあるのです。

 

それも毎年、社会情勢やバチカンの意向と教職員の気まぐれで旅行先を決めてしまうのでした。

 

去年は長崎に隠れキリシタン遺跡を見に行ったそうです。

 

海外出身の生徒にはとても受けが良かったそうです。

 

今年はなんと教皇がフランスに来る日に合わせて、聖エルモのみんなはルルドに行くことになったのです。

 

そしてああ、おかしな事に全学年1クラスしかない小さな学校ですから。

 

毎年、全校生徒全員修学旅行に行ってしまうのです!

 

 

当日早起きして学園の最寄り駅に集合、近年開通した新幹線にニ時間ほど揺られ、都会の空港に到着した。

 

みんな朝からずっと賑やか、悪く言えば騒がしい。

 

そのうち殆どがスマホゲームの話だった。

 

ちなみに私はブームに取り残されていた。

 

アキはずっと眠そうで話しかけても

 

「ああ。」

 

としか言わなかった。

 

シルヴィーはといえば、ノートにずっと数式と魔法陣を書いていた。

だめだ、放っておこう。

 

さぁやは楽しそうにはやしゃぐみんなの写真を撮っていた、この日のためにカメラを買い替えたらしい。

 

こうして私達は日本をあとにした。

 

飛行機が離陸をした時に生徒の一人が叫んだ。

 

「Allez en France!。」

 

フランスに行こう!機内に拍手が起こった。

 

 

エールフランス便はパリの空港に到着した、フランス語と英語が飛び交っている。

 

真っ赤な絨毯の上を、ブルーブロンズの制服が歩いてゆく。

 

海外では学生服は珍しいのだろう、行き交う人がこちらに手を振っている。

 

クラスメイトはみんな馴れたものでセルフィーを撮ったり投げキッスをするのだった。

 

お昼を食べるとパリからルルド行きのTGV、フランスの新幹線に揺られる事になった。

残念ながらパリ観光は出来ない。

 

モンペール、すると流石に皮肉なものです!みんなで名残惜しんでオーシャンゼリゼを歌うのだから。

 

私は何度もうたた寝するアキを起こして言った。

 

マドモワゼル、パリについたぜ。」

 

アキは寝ぼけながら言った。

 

「ああ…始まるな。」

 

ようやっと目を覚まして来たらしい。

 

Endoromie!

 

私のかわいいおねぼうさん…。気がつけば私はアキの写真を取りまくっていた。

 

 

ルルドの駅に着いた。

 

表に出ると南仏独特の晴れやかな空と、煉瓦の家と鮮やかな花が目の前に広がった!

伝統的な旧市街の風景に風が吹き抜ける!

 

生徒たちが口々に叫ぶ。

 

「Belle France!Belle Lourdes!。」

 

聖エルモの少女達が、一斉にルルドに解き放たれた!

 

オカルト研のメンバーと街を見て回ろうとしたけれど、まずは長縄跳びしてる子どもたちと一緒に遊ぶことにした。

 

モンペール、マドンナ!ああ聖地ルルド、その昔に少女ベルナデッタがマリア様に出会ったと言う聖地!

その聖なる泉、病気が治ると言われる聖なる泉を求めて、または観光のために世界中の人が訪れる聖地!

 

ああ。聖エルモの生徒たちはそれなのに公園の子どもたちとあそんでいます!

 

 

聖地はメルヘンチックすら感じるお城の姿をしていた。

 

巡礼には車椅子の人や病気の人や介護する人の姿が目立つ、だけど悲壮な感じはなくてみんな、顔は明るかった。

 

中央の泉にはローソクが沢山ささげられていた。

 

泉の岸壁にマリア像が掲げられていた。

 

あそこがマリア様の現れた場所だそうだ。

 

みんなお土産をみたり泉の水を汲んだり、飲んだりしているうちに夕のミサが始まった。

 

なんだか感動して目頭が熱くなった。

 

しかし、なぜか一番感動しているのはさぁやだった。

 

とても感動して故郷の言葉が出ている。

 

「きれいやね…感動したわ。」

 

私は、さぁやの背中をさすった。

 

こうして初日の夜は更けていった。

 

 

次の日、朝のミサ、朝食が終わると午前の分かち合い。

それが終わると徒歩で十キロほど歩いて屋外イベント会場まで行った。

 

二日目からはみんな制服は着ていなかった。

 

歩き続けて私達は本当にヘトヘトになっていた。

 

到着すると夕方になっていて、現地でボランティアからもらった保存食を食べるとみんなすぐに寝てしまった。

 

何万もの世界中の人たちが来ていてまるで難民キャンプのような光景だけれど、みんな幸せそうだった。

 

きっと天国はこんな所だ。みんな若くて明るくて優しく愛にあふれている。

 

世界中から来た青年たち、マスールやパァドレ(神父)たちと話して、いろんな持ち物を交換して、私のバッグの中身はよくわからない土産でいっぱいになっていた。

 

そうしているうちに、教皇さまが到着してミサは一時間ほどで終わった。

 

イタリア語だから何を言ってるかよくわからなかったけど、イタリア人グループの若くてイケメンなセミナリオ(神学生)が私達のためにフランス語で通訳をしてくれた。

 

彼のために十五人ほどがお菓子や手紙やティッシュやハンカチや香水や飲み物やロザリオをあげた。

 

 

日本に帰る飛行機の中で思い出した。

 

そういえば私達は悪と戦っていた。だけど戦うことが全てじゃない。

 

世界は、広いんだ。そして私はヒロインだ…!………うん。

 

これからも私達の戦いは続く!打ち切りエンドじゃないよ、ホントに続くって!

- A suivre !

Epsode 13(イピゾ・トレェズ)

 

Bush de Noel.

(ケーキ!)

 

 

もうすぐLa veille de noël.

 

そう、十二月と言えばノエルです。

 

英語で言うとX'masだ。

 

聖エルモでも降誕祭の準備で大忙しだ。

 

朝夕のミサはいつもより厳か。つまり長くなり、生徒総出で校内の潔癖さを感じるような清掃が続く。

 

ああモンペール!みんな教会の聖日の前だけは、かなりしっかりと掃除をしたがるのです!

 

そして飾り付けは華やかで、木造のお聖堂にこれでもかと言うくらいローソクが並べ立てられるのです!

 

マドンナ・マリア!ああ彼女たちに何をどのくらい飾ると火事になるから危ないのかをもう少し教えてあげてください。

 

 

オカルト研でAdvent Kranz.を作ることになった。

 

日本語でなんと言うか知らないけど、クリスマスを待つ時期のアドベントの、常緑樹を使った飾りだ。

 

アキはといえば、立ったまま草木を切るのはどうにも華道の精神に反するから落ち着かないと言って修道院の和室に立てこもってしまった。

 

どうやら芸術的な精神に火が付いてしまったらしい。

 

これはいけない、どうか普通のものを作ってほしい。

 

そして飾り終わったら私にください。

 

一方で私とシルヴィーと、さぁやは、Stable(降誕の馬小屋のかざり)を作っていた。

 

シルヴィーが手も口も勢い良く動かしている。

 

「そういえば私、聞いたんです…マリア様が馬小屋で子を産むしかなかったのは世が罪でまみれているからであって、夜と言う世界は悪に支配された空間の象徴で…。」

 

シルヴィー!おーい!かえってこーい!

 

 

宣教会からのクリスマスの寄付で、修道院のパソコン一式が新しくなることになった。

 

高齢のマスールたちには酷な作業なので、生徒が何人も手伝った。

 

ツヤツヤのプリンターに指紋が残ったのを見て私は思いついた。

 

指紋…。

 

それはきっと生徒を襲った魔物か犯人の手がかりになるはずだ!

 

そして次のオカルト研の活動日、私はそれを発表する事にした。

 

 

「と言うわけで、犯人を探すには指紋が一番有効だ。」

 

私はこの間思った事を発表した。みんな、なるほどうんうんと頷いた。

 

シルヴィーが少し考えて言った。

 

「では修道院と寮の共用PCをはじめ、あちこちに祝別された聖油を塗っておき、指紋が焼き付くことや皮膚が千切れることがあればその人はDと濃厚な関係があるとわかりますね。」

 

確かにその通りだ…。でも、皮膚が千切れるのはちょっと怖いな。

 

そして作戦は決行された。

 

 

翌朝早くに、さぁやが修道院と寮のドアノブや指紋を調べた。

 

少し焦げ付いたあとや、それが拭い去られた跡があったのは二つの部屋だった。

 

一つは愛花さん、もう一つはマスール・ルイーズだ

 

マスール・ルイーズ…あんなヨボヨボのおばあちゃんが、私達の考えに気が付くとは思えない。

 

やはり、犯人は愛花さんなのか?

 

まさかそんな事ってある?

 

そしてノエルの前日、愛花さんはオカルト研にやって来て堂々と言った。

 

彼女は自分が少女たちを襲っていたと白状をするのだろうか、だとしたら一触即発だ。

 

アキが身構えて言った。

 

「あんた何を隠していたんだ…。」

 

続いてシルヴィーがタブレットを見ながらにやけてつぶやいた。

 

「さて、聞かせてもらいましょうか!ヒヒッ…。」

さぁやはメモと万年筆を置いた。

 

「……そう。」

 

みんな怖い!

 

私もなにか言おうと思ったけど咄嗟に言葉が出てこない。

 

沈黙は一分ほど続く。

 

ここは一つお茶でもと思い付き、私は愛花さんに向かって言った。

 

「まあまあ、とりあえず座って!お茶入れましょう、玉露の良いのがあるんです!。」

 

ガラにもなく気を利かせてみたら、みんな黙ってしまった。

 

愛花さんは少し俯いてから口を開いた。

 

「実は私も、あなた達と同じかもしれない。」

 

えっ、愛花さんも不思議な力を持っていて悪と戦っていたの!?

 

突然に目の前が青白く光り、風の天使、ツバサくんがやって来て言った。

 

「Fille magique!。」

 

魔法少女か…揃って来たわけか、プリキ…

と思ってみた途端、ツバサくんか強い風を吹かせたので、それは世の中のルールで言ってはいけない言葉だとわかった。

 

愛花さんの調べでは古い学園の記録はかなり消えている。

 

最も古くから学園の修道院にいるのはマスール・ルイーズだ。

 

そして愛花さんにはどんな能力があるんだろう。

 

 

次の日、愛花さんはオカルト研の部室にノエルのArrangement de fleurs(フラワーアレンジ)を持ってきてくれた。

 

それはこの世のものとは思えないほどきれいで、全部が見た事のないものだった。

 

南洋の珍しいものと言うか…。愛花さんは笑顔で言った。

 

「私のチカラで咲かせた、退魔の花たちよ。」

 

なるほど、愛花さんの能力は植物に関係があるらしい。

ひいらぎかざろう ファラララ ラララ♪

 

Bush de Noel美味しいな!Joyeux noel!メガドライブミニ持って来たの!

- A suivre !

Epsode 14(イピゾ・キャトズ)

 

Chevalier saint mignon.

 

(聖騎士ちゃんかわいい)

 

 

愛花さんが仲間に加わって、ついに一連の騒動の黒幕を突き止めた。

 

それはマスール・ルイーズ。

 

学園のマスールの中で最年長で、彼女の記録の殆どが消されている。

 

時を同じくして、さぁやが見つけた大昔の新聞の、日清戦争戦没者慰霊の分にルヰズの署名の字があった。

 

それはマスール・ルイーズの筆跡ととてもよく似ていた。

 

マスール・ルイーズは戦争で愛する人を失ったらしい。

 

そして、その人の持つトランペットが学園の何処かにある。

 

彼女は生徒たちから生命のエネルギーを吸い取り、愛する人を生き返らせようとしているのだろうか…。

 

ひとつ謎が解けては、また深まる、一体、彼女は何歳なのだろうか…。

 

 

冬休みを迎えた12月の終わり、学園内ではまだノエルを祝うための木が飾られている。

 

教会のノエルは五週間続くのだ。

 

愛花さんを加えたオカルト研のメンバーは部室に集まって、キラキラとしたお祝いのお菓子をバリバリ食べながら、今後の事を相談している。

 

さぁやが何度も考えるようにつぶやく。

 

「真犯人はマスール・ルイーズ…。」

 

シルヴィーは斜め上をぼうっと見て言った。

「だとしてもどうしたらいいんですかねえ、監視カメラでも仕掛けますか、バレたら警察に捕まっちゃいますね!ふふ…。」

 

アキは赤い小鳥、ブリジッタが水を飲むのを見ながら言った…。

 

「ばあちゃんの飲み水に聖水を混ぜると言うのは?。」

 

確かに魔性に獲り付かれた人が聖水を飲むと驚いて正体を表すかもしれない!

 

 

シルヴィーは、冬休みで静かになった学園の聖堂から、聖水を拝借してそれをコップに入れた。

 

こうして私達はマスールルイーズの部屋を訪れた。

 

愛花さんがノックをして彼女の部屋に入る!

 

「お薬の時間ですよ。」

 

本当は薬の時間とは違うのだけど…なんだか保険金目当ての毒殺みたいだ。

 

マスールは答えた。

 

「はいよ、わかったよう。」

 

彼女は聖書の言葉が書かれた丸めた紙と、聖水を受け取るとぐっと飲み干した。

 

どうやらなんともないらしい…。ほらやっぱり!全部嘘だったか。

 

しかし、その瞬間!彼女は激しくむせ込んだ。

 

愛花さんがマスールの背中を擦る、そして彼女は何かを吐き出した。

 

それは蛇の様な頭とトカゲのような体をしていた。

 

よくみると海亀のようなヒレを持っている、小さな爬虫類だ…。

 

どこかで見た気が…。そうだ、子供の頃に恐竜の図鑑でみた!古代生物の海竜だ!

 

マスール・ルイーズは長年の秘密を隠す事をあきらめたように言った。

 

「昔、とある筋からこいつをもらったのさ…。」

 

とある筋…間違いない!聖書のサタン、蛇の血を引いて、人間社会に紛れ込んで人を喰い…不老長寿の薬を作る…竜の教団の仕業だ!

 

マスールは続けて語る。

「全部アタシがやったのさ!こいつにトランペットを聞かせると人を喰うのさ…こいつの卵を喰うと不老長寿になって魔力も付くよ!若い娘を襲う気分は最高だよ!…あたしたちの仲間にならないかい?人よりうんと長く生きられるよ…!。」

 

なんてことだ…魔女め!どうやら本当らしい。マスールは続けて語る。

 

私は何だかひどい違和感と怒りを覚えた。

 

「やっちまいな、私のかわいいエルモ!。」

 

エルモ?学園と同じ名前を付けられた小トカゲは、こちらの指を狙って飛びかかって噛み付いて来る。ひらりとかわすと、それは話し始めた。

 

「…喰ってやる!ひひひゃ!。」

 

私は意気込んで叫ぶ!

 

「みんな!変身だ!。」

 

すぐにアキから返事が来る。

 

「ま、変身できるのは私ときみだけだけどね。」

 

ホントだ!

 

私が平安貴族の狩衣のような姿に、アキが巫女のような姿になった。

 

シルヴィーがグラス型デバイスでDの解析を終えて言った。

 

「反応出ました、白亜紀後期に生息していたエラスモサウルス型です。こいつは巨大化するかしもれません!このまま戦うと建物が壊れる!外に出て!早く!。」

 

逃げたい!と思った時、マスール・ルイーズは錆びついた小さなトランペットを吹く。

 

ノォー!と金属がこすれるような音が響くとエラスモサウルスはその音に反応して、私達を威嚇した。

 

聖エルモ会の伝説の様に竜を操っていたのは彼女だ、そしてあのトランペットは戦没した彼女の恋人のものだろう。

 

 

私とアキが変身をして、中庭に出ると雪が降っていた。

 

まっ白な学園の中庭に竜が、首中竜エラスモサウルスがいる。

 

そして、それはみるみるうちに大きくなっている。

 

さっきまで三十センチほどだったけど、今はニメートルくらいだ。

 

魔女、マスール・ルイーズはエラスモサウルスの背中にまたがる。

 

彼女の吹くトランペットの音にあわせて、エラスモサウルスは口からジェット水流を巻き散らしている。

 

アキが真っ赤に光って金の刀を振り上げて、エラスモサウルスに斬りかかった。

 

切った傷口が焼け付き、竜は身悶える。

 

しかしあっと言う間に回復をする!これではキリがない。

 

さぁやはバールを持って竜を睨みつけていた。

 

愛花さんが叫んだ。

 

「Je suis jardinier.。」

 

jardnrer,

 

庭師…愛花さんの能力は植物を操る事。

 

彼女の背中が緑に光ると、蔦や茨を地面から出させた。

 

竜とマスールにそれを絡みつけ、命を土に返そうとさせているらしい。

 

ツバサくんは一見するとただ立っているのだけど、私達にパワーを送ってくれいるとわかった。そして心に直接話しかけて来た。

 

「負けないで…負けないで…負けないで…僕はツバサ、君たちの祖の堕天使の背から落ちた…君たちの…ツバサだ。…どこまでも君たちに追い風を送る!。」

 

そう言う事だったのか…。ツバサくんの肩に、水色に光る翼がみえた。

 

そしてそれを見て、シルヴィーが何かひらめいた様子で言った。

 

「良い考えがあります、しばらく時間を稼いでください。」

 

せめて何かを聞かせてほしいけど…。しかし竜は暴れ狂う!

 

そしてアキが意気込んで言った。

 

「Oui, mademoiselle!(任しときな、お嬢さん)。」

 

アキの周りが炎で煌めいて、辺りの雪がそれを際立たせた。

 

そして背中の炎が翼のように伸びた。

右手の剣が鳥のくちばしのように見えた。それがどことなくAnge.天使の姿に見えた。

 

アキはものすごい速さで、竜に斬りかかった、何度も何度も斬りつけている。

 

それは肉食鳥が仕留めた獲物を岩に叩きつけるように、迷いと無駄のない鮮やかさだった。

 

シルヴィーまだか早く来てくれ…。アキ、無茶しないで!

 

きっとあんまりチカラを使うと人間には戻れなくなってしまうから…

 

君が不死鳥になってどこかに飛んで行ってしまう気がする…。

 

マスール・ルイーズがアキを口汚く罵り、魔法少女の成れの果てが魔女と言う説も納得する。

 

退魔のチカラを持って生まれながら、愛する人を戦争で亡くした悲しみで、悪魔崇拝の竜の教団に誘われた彼女は、愛する人を待ち続けた、きっと生き返らせようとした。

 

そのために長寿も手に入れた。でも確実に老いてゆく…若い娘に嫉妬し、その若さを手に入れようと少女を襲い続け、悪魔の竜を育ててしまった!

 

その悲劇を今夜終わらせる!

 

「Mon pere!Dans le jardin de mon père  la tragédie est terminée.。」

 

モンペール、私の父の庭で悲劇があるならもうそれを終わりにしましょう!

アキがフランス語で返事をした。

 

「C'est vrai(しょうちの助よぉ!)。」

 

さぁやも息を切らして言った。

 

「Oui!Oui!。」

 

Oui!Oui!

 

アキががむしゃらに、竜に斬りかっていると竜は、その歯で刃を受け止めた。

 

すると祖霊英雄の刀は折れてしまった…。

 

あんなにがむしゃらな使い方をするから…。今まで折れなかったほうが不思議だけど…。

 

アキが折れた刃を見つめて言った。

 

「折れたか…戈莫拉の霊廟の宝。」

 

アキは折れた剣を私に託すと、刃を拾いに行った。

 

剣を握っていると、聖なる力がみなぎってきて、振るうだけで竜を怯ませることが出来た。

 

アキは折れた刃を拾い上げると、制服のスカートを引き裂いて刃元に巻き付けた。

 

再び刀としての機能を取り戻したそれは、血と返り血で真っ赤になっていた。

 

そしてアキは、祖霊英雄の魂はつぶやいた。

 

「formation!。」

 

formation!連携技?何をやれば?

 

「小鳥のブリジッタの命と、俺の生き血と、君の生き血と、二人の寿命の半分を生贄に…フェネクスを召喚する。」

 

私は折れた刀で応戦しながらアキに言った。

 

「怖い!。」

 

そして、シルヴィーが戻って来た。

 

「おーい、戻ってきましたよ。」

 

なんと屋根の上から中庭を見下ろしている。

 

そして聖堂の十字架を肩に担いでいた。

 

シルヴィーは十字架にまたがって勢い良く飛び降りて叫ぶ!

 

アレルヤ!。」

 

そして嫌な音を立てて暴れ狂う竜と老婆を貫いた。

 

十字架は魔性の血と邪気を浴びて、シューシューと音を立てていた。

 

シルヴィー…えげつない!

 

マスール・ルイーズとエラスモサウルスが、こと切れた。

 

シルヴィーが研究のために、マスールとエラスモサウルスの肉片を回収したあと、残りはアキの力の炎で灰にされた。

 

清めの炎は美しく、そして暖かく燃えた。

 

 

すっかり明け方になっていた。愛花さんが灰の山に白百合を供えて言った。

 

「終わったわね…。」

 

アキも黄昏れた様子で言った。

 

「うん…。」

 

元気ないね!

 

さぁやもすっかり疲れた様子だ。

 

「もう嫌……。」

 

ホントだよね!

 

5人は修道院でシャワーを浴びて、着替えがないので修道服を拝借した。

 

それを学園長見られてしまった。

 

学園長は少しだけ呆れて私達に質問をした。

 

「あんたたち…それは信心からの行為なの?それともコスプレなの…?。」

 

両方です。

 

その間に、さぁやがマスール・ルイーズの筆跡を真似して、探さないでと言う書き置きを残した。

 

そして、私達は彼女の遺灰を海に蒔いてから、街の教会の朝のミサに行った。

 

 

ミサにあずかると五人は解散して、それぞれの帰路についた。

 

さぁやと愛花さんは寮に戻った。私とアキとシルヴィーは家へと歩く…

 

はやけになって言った。

 

「秘密っていいよね。」

 

空を見上げると朝日と月と星が僅かにみえた。

 

私とアキとシルヴィーみたいだと少しだけ思った。

 

男の子が泣き叫んで走っていた。

 

彼の背中は光り輝いていて、中世の天文学の機械のような絵が見えた。

 

「神様!ぼくの予言の力で、この世界を守れるの!?。」

男の子は過ぎ去った。

 

アキがため息をついて言った。

 

「ああ秘密だらけだな。」

 

私は叫んだ

 

「モンペール!。」

 

アキとシルヴィーも真似をした。

 

 

シルヴィーと別れると、いよいよアキと二人きりになってしまった。

 

勢い余った私はつい、前から思っていた事をアキに聞こえるように言ってしまった。

 

「好き!百合アニメ劇場版みにいこう!。」

 

アキは振り返って微笑んだ。

 

「おごれよ!。」

 

あなたはやっぱり太陽のようだ。

そして、私はアキに寄り、唇を奪った。

 

Mon père.Fils de Dieu.Notre Dame.

 

Je protégerai ton jardin.

 

Je connais l'amour.

 

Je connaissais l'espoir.

 

Je combat le diable

 

Comme St. Michael.



天のお父様。神の御子イエス様。聖母マリア様。

 

私はあなたの箱庭を守ります

 

愛を知りましたから

 

夢を知りましたから

 

悪魔とだって戦えます

 

聖ミカエル天使のようにね

 

fin.

 

Nouvelles pousses.1

 

Ep 1 Dragon volant.

 

(空飛ぶドラゴン)

 

 

モンペール、私たちは無事に聖エルモの三年生になりました。

 

愛花さんは卒業して、学園のマスール見習いになりました。

 

私達オカルト研のメンバーはD、悪魔との戦いで制服をだめにしてしまったので、当分は修道服で過ごすしかないようです。

 

それから一人も留年しませんでした、奇跡としか思えません。

 

Dとの戦いは相変わらず続いていて、終わりが見えません。

 

彼等の本拠地である竜の教団との決着もまだです。

 

フィロントン!

 

私達はあなたの箱庭から伸びる新しい芽。

 

どこまでも伸びて行きたい。

 

 

春の午後の授業の授業って眠たくなる、私は教室の机からぼんやりと空を眺めていた。

 

すると、空に大きな影が見えた。あれは飛行機だろうか…いや、違う。

 

よく見ると羽ばたいている。大きな鳥…?。

 

いや、違う。翼には爪があって、身体には羽毛がない。

 

隣の席のクロエを小突いて、上を見るように促しても、クロエは首を降って言った。

 

「なに?なんなの…?。」

 

私はクロエに答えた。

「上…上を見て。」

 

クロエは窓から空を見上げて言った。

 

「なんにもないじゃない…ん!なにあれ?。」

 

クロエが立ち上がると、クラスのみんなが釣られて立ち上がった。

 

「Qu'est-ce que c'est?。」

 

なんだなんだ?

 

「Avion?。」

 

飛行機?

 

「Des oiseaux?。」

 

鳥?

 

「Chauves-souris?。」

 

コウモリ?

 

「UFO?。」

 

未確認飛行物体?

 

UMA?。」

 

未確認生物?

 

皆、口々に謎の物体について考察する。

 

シルヴィーが双眼鏡で上空の何かを見ている。

 

私は彼女に聞いた。

 

「ねえ…なんか見える?。」

 

シルヴィーはため息をついてから言った。

 

「AIによる照合の反応は…出ました!白亜期末の翼竜、ケッアルコアトルスです!つまり我々の宿敵、Dなのです。」

 

なんと言う事だ。

 

アキがいつもの調子で言った。

「それじゃあ、あいつをなんとかしないとな。」

 

 

放課後、オカルト研の会議が始まった。

 

シルヴィーの合図で会合が始まる。

 

「皆さん、本日午後に聖エルモ学園の上空に翼竜と思われる飛行物体が登場しました。本会議はこれの対策です…まず質問のある方!。」

 

さぁやが手を上げた。

 

翼竜…ってそもそもなんでしょう?古生物ですか?。」

 

確かに…そう言えば私もよく知らない。

 

シルヴィーはタブレットの画面を見ながら言った。

 

中生代に生息していた爬虫類の一目のようですね、恐竜とはほぼ同時代に反映しましたが、分類の違う生き物のようです…。」

 

ほうほう…

 

「最大の特徴は飛行することです、しかし骨格や飛行の方法は鳥類とかなり違うようです…現在の研究ではコウモリの飛び方に近いとされています。」

 

なるほど、コウモリに近いのか。

 

「水鳥のように水面を泳ぐ事も出来たとされています。食性は肉食性ですから…こちらが襲われる可能性もあります。」

 

肉食なのか、確かに危ないな。

 

アキが一口お茶を飲んでから、シルヴィーに質問をした。

 

「だとしたらどうする?。」

 

シルヴィーは少し間を置いて言った。

 

「まずは観察、人を襲うようなら撃退、可能であれば捕獲して調査します。」

 

その時、部室の扉が開き愛花さんもやって来た。

 

彼女は学園を卒業してからマスール見習いになって、オカルト研の顧問になってくれた。

 

私やアキと同じ、賜物と呼ばれる力を持っている。

 

彼女の場合、植物を操る力だ。

 

愛花さんは少し微笑んで言った。

 

「なになに?なんの話…?。」

 

 

まずはシルヴィーが望遠鏡で翼竜の調査だ。

 

私は中庭で、シルヴィーの私物の望遠鏡で空を見上げた。

 

未だに空を滑空する翼竜、しかし遠すぎてD、悪魔かどうかもレーダーで判断できない。

 

私はシルヴィーに聞いた。

 

「うーん…これからどうする?。」

 

シルヴィーは微笑んで言った。

 

「撃ち落としましょうか!。」

 

えっ、どうやって…

 

アキが言った。

 

「絶対に無理とは言わないけど、そもそもそんな必要あるの?何でも敵だって限らないだろ?。」

 

確かにそれもそうだ。

 

さぁやが言った。

 

「う〜ん、記念に写真を取りましょう!。」

 

さぁやがスマホで撮影を始めた。

 

 

四月の末になって桜が満開になった。

 

週末、学園の脇で、ピクニックとなった。

 

マスールたちがルヴァンをあおっているのを見ると、すっかりお花見の習慣が根付いているとわかった。

 

しかし、時々空を見上げるとやっぱり翼竜はいるのだ。

 

だんだん気にならなくなって来たけれど、やっぱりいるのだ。

 

きっと春の幻なんだろう、聖人の奇跡も集団幻覚の場合があると聞くし…

 

突然、目の前が青白く光った。

 

風の天使、ツバサくんだ。

 

ツバサくんは私達オカルト研のメンバーに言った。

 

「大型動物が空を飛ぶのは何故だがわかる?。」

 

うーん…飛びたいから?

 

「小型動物が飛ぶのは捕食者から逃げるため、大型動物が飛ぶのは…。」

 

獲物を探すため?

 

「獲物を探すためだよ。」

 

やっぱり!?

 

と思うと、上空のアレがやはり危険なものだったと解った。

 

それきりシルヴィーは対策の研究に没頭するようになった。

 

 

シルヴィーをはじめとしてオカルト研たちはそれから、なんとか翼竜を墜落させようとした。

 

現れてはあっと言う間に飛び去ってしまうので、まずはロープウェイでH市のH山頂に登り、展望台から翼竜を観測することにした。

 

午後二時、太陽が最も高く昇り気温が暖かくなる頃、それは現れた春の上昇気流に乗ってフワッと私達の上空を過ぎ去った。

 

それを目で追うと湾の向こうの森へと消えた。

 

どうやら巣はあそこにあるらしい、春になって出て来たと言う事は暖かい気候を好むのだろう。

 

そして繁殖の時期だとしたら、雛にあげる食事を探している事もありえる。

 

シルヴィーはニヤリと微笑んだ。

 

 

GPSとドローンを使って、私達は翼竜の巣を発見した。

 

崖に藁で作った鳥の巣の様なもので、翼の長いペンギンの様な生き物が五匹ほどギャーギャーと鳴いていた。

やはり翼竜は雛にあげる食べ物を探していた。

 

シルヴィーがグラス型デバイスを使い、周囲を確認した。

 

するとなにか見つけたらしい、エクリプスや賜物の力の様に怪しく光る細い影があった。

 

彼女はそこに寄って行った。空中に紫の光がある、その光の向こう側は見えない。

 

反対側に回ってみても、光は透過しない。おかしい…

 

シルヴィーがグラス型デバイスで、じっと光を観測する。

 

さぁやがふいに言った。

 

「これ…時空の裂け目とか?もしかして翼竜は…ここから来たのでは?。」

 

愛花さんが光を見つめて、手を伸ばした。

 

彼女の背中が緑に光ると、地面からアイビーのような蔦が伸びて、光に縫い合わさるように絡まると、徐々に締め上がって光を潰すように消した。

 

そしてこちらに振り返って言った。

 

「時空の裂け目だったみたいね…。」 

 

その時、集団の足音が聞こえて来た。

 

そして何か話し合っている。

 

「この辺のはずだ…。」

 

「探せ…。」

 

声のする方を見ると、白装束に昇り竜の模様の一団。

 

我々の敵、竜の教団だ。

 

男たちに連れられている小学生くらいの子がいる。

 

彼等の背中は私達と同じように光っていた。

 

男が小さな子に当たり散らして言った。

 

「今度抜け出したら承知しないぞ、もっと力を使って探すんだよ!。」

私達はその場に隠れて、竜の教団の様子を見る事にした。

 

竜の教団は笑いながら、その悪事を話した。

 

翼竜の巣はどこだ…卵を捕まえて育ててれば…。」

 

「ああ、大きな翼竜を使えば、生贄の人さらいにもってこいさ…。」

 

なんて事を、魔性を捕らえて道具にして、人さらいをやらせようとしていたのか…

 

捕らわれた男の子が言った。

 

「誰かいるよ…たぶん隠れてこっちの話を聞いてる…。」

 

教団の男が、男の子の胸ぐらを掴んだ。

 

「そうゆう事は早く言いなさい!。」

 

私は念じた。みんなどうする?ここは逃げる?

 

私は最近、いわゆるテレパシーが出来るようになった。

 

みんなからは、逃げようと言う返事が来た。

 

 

しばらく経っても翼竜は現れなかった。

 

愛花さんによって時空の裂け目が閉じたかららしい。

 

私はあの竜の教団に捕らわれていた男の子の事が気になってた。

 

彼はどうなってしまうのだろう…悪魔崇拝の生贄にされるのだろうか、竜の教団の後継者の一人にされてしまうのだろうか…。

 

私はまた空を見上げてぼんやりと、あの世もこの世も繋がっているかもしれないと思った。

 

モンペール、今の仲間のみんなといられる時間は長くない、いつまでも続くわけじゃないけど…

 

私はそれを、大切なこの場所を守りたい。そしてこの箱庭から飛び出して根付く一本の新芽になりたいです。

- A suivre !

Nouvelles pousses.2

 

Ep 2 Le ciel ne peut pas voler.

(空は飛べないけど)



 

春の連休を前に、私達オカルト研は今後の対策を話し合った。

 

最近解った事は、空を飛ぶDの仲間がいる。

 

竜の教団は野や人里のDを捕らえて飼いならして人間を襲わせている。

 

そして私達と同じように賜物と呼ばれる力を持つ子供たちを使ってなにか怪しいことをしている。

 

私達に生まれ持った神秘の力があるなら、奴らを止めることは使命だと思う。

 

みんなそれを少なからず思っている、だけどどうやって?

 

命をかける戦いになるのかな…モンペール、マドンナ、サンミシェル

 

私…大切なものを守りたいです。

 

 

いよいよ、連休に入ってしまった。

 

ある朝、私達はいつものように部室に集まった。

 

最近、奴ら、竜の教団の恐ろしさを知ってしまったので、みんな元気がなかった。

 

アキは小鳥のブリジッタに話しかけていた。

 

「お前は良いよな…お外は怖いんだぞ…。」

 

仕方ない、今はみんな気が滅入ってる。

 

だけどこんな春の陽気の中だ、いじけていちゃもったいないよ。

 

私は手を叩いて言った。

 

「なんかしよう!。」

 

さぁやがメモを取る手を止めて言った。

 

「なんかって何。」

 

うっ、そう言われると

 

黒ひげ危機一髪もミニメガドライブももうやり尽くしてしまったし、お花見もこの間したばっかりだし…

 

私はたった今思いついて言った。

 

「温泉でもいこう!。」

 

 

それから私達は市街の温泉についた。

 

まずはお風呂だ、みんなパタパタと服を脱いで浴場に向かった。

 

アキはといえば、普段から温泉宿の浴衣のような服を着ているものだから、従業員に間違われてしまった。

 

ガバッと浴衣を脱いで、慣れた様子で浴衣を畳んでタオルを肩に回すと思い出したように腰に巻いた。

 

私と愛花さんとシルヴィーとさぁやは

 

ポカンとしてその様子を見ていたけど、今更突っ込む気にはなれなかった。

 

ゆったりと広いお風呂でくつろいでいると、目の前が青白く光った。

 

風の天使、ツバサくんである。

 

ツバサくんは浴槽に浮かんで立って言った。

 

「うんうん、休む事も大事だ。」

 

私は一瞬驚いたけど、まあよく考えてみればいつもの事だし、ツバサくんはそもそも人じゃないからいいや。

 

さぁやが言った。

 

「ツバサくんも浮かんでないで入ったらどうですか。」

 

浮かぶな!?パワーワードだ。

 

愛花さんはツバサくんを見て、近所の子に送るような目線を向けて言った。

 

「のぼせないようにね〜。」

 

とてもリラックスした調子だ。

 

アキはツバサくんに言った。

 

「結局きみは男なのか女なのか…まあ、いいか。」

 

きみが言うんだそれ…、アキは立ち上がった。

 

「ゲームやりに行くからあがるわ、待ってるから来いよ。」

 

リラックスした彼女はいつもよりも遥かにボーイッシュな何かに溢れていた。

 

 

ゲームコーナーに着いた。

 

今時、こう言うレトロな感じのゲームは減っているらしい、時代の流れだろうか。

 

シルヴィーが銃を乱れ撃つゲームを始め、さぁやはクレーンゲームをやっていた。

 

アキは黙って窓の外を見ていた。

 

ゲームコーナーの片隅にブラウン管の筐体を見つけた。

 

麻雀のゲームで勝つと女の子が服を脱ぐやつらしい…。

 

昔きっと多くあったのだろう…。

 

画面と音がとても乱れているので、壊れかけているのだとわかる。

 

その様子は今まで見た何とも違っていた。

 

私が画面にそっと触れると、どこからか声が聞こえた。

 

「あなたはだぁれ?。」

 

え…。

 

アニメっぽい女の子の声。

 

まさかゲームの中のキャラクター!?

 

私はシルヴィーを呼び寄せて、彼女のグラス型デバイスでこのゲーム筐体を調べてもらった。

 

私はシルヴィーに訪ねた。

 

「どうなってるの?シルヴィーにも聞こえる?。」

 

シルヴィーは少し考え込んで言った。

 

「持ち帰って調査しましょう…。」

え?貰えないよこんなの…

でも壊れかけてるから良いのかな?

 

私達はホテルの責任者に会った。

 

シルヴィーいわく電子工作のコンクールに使うそうだ…。

 

私達は言葉少なに美少女麻雀ゲーム機を担いで帰った。

- A suivre !

Nouvelles pousses.3

 

Ep 3 Réaction de la vie.

 

(生命反応。)

 

 

ボンジュール、春の連休真っ盛りだ。

 

あれからシルヴィーは、古いゲーム筐体をオカルト研の部室に置いて詳しく調べ始めた。

 

私とアキと似た反応があるらしい。

 

それを見た人は面白がったり、コインを入れて遊ぼうとする。

 

しかし、私達がこれの正体を知っている。

 

おそらく、中に何かある。

 

それを確かめる道具は揃いつつある、特殊なドライバー、精密作業用の手袋、ピンセット、半田ごて、この機械の設計図、電気関係の資料…

 

どれもかなり安く手に入れたから、古いものも混ざっている。

 

表面のホコリを拭う、シルヴィーは常にグラス型デバイスで特殊な反応を探している。

 

そして指先でホコリを取って言った。

 

四人集まった所で、愛花さんもやって来てみんな揃った。

 

「僅かに反応あり…。」

 

この奥に一体何が…ネジ穴を見つけた。

 

ドライバーで開けようとするとネジが錆びていたので、柔らかいグリスを縫った。

 

ネジを全部はずし終わると、巨体を横に倒して蓋を開けた。

 

中は埃まみれだったので、掃除機を使って掃除した。すると何か光っている。

 

シルヴィーが虫眼鏡でそれを見つめて言った。

 

「Champignons …菌類ですね。おそらく粘菌かと。」

 

アキがそれをみて言った。

 

「これが私とマキと似てるってわけか...賜物の力をこの生き物が持っている?。」

 

シルヴィーは少し考えて言った。

 

「はい、おそらく…しかし生物の一部だった可能性もあります。例えば未知の生物の体液とか。」

 

なるほど、正体は不明の菌類か。

 

内部基板をよく見ると、菌類の回りがやや腐食しているように見える。

 

粘菌が金属を食べるなんて、シルヴィーが目を輝かせて言った。

 

「ふふふっ、繁殖をしていると言うことは培養すれば利用価値があるかもしれませんよ!ふふふ…へへっ。」

 

可愛らしく微笑むインテリジェンスな少女は、無垢にも不気味にも見えた。

 

次の日、シルヴィーは粘菌の培養を開始した。

 

 

それからしばらく経って連休が終わる頃、また翼竜が現れた。

 

ニュースによると翼竜は街の幼稚園を狙ったらしい、そこにはアキの弟、吹雪(ふゆき)ちゃんも通っている。

 

Dは人を襲うけど、世間では現れた後あっと言う間に気にされなくなる。

 

影のように現れて影のように消える、サタンの末裔だ。

 

あいつらの好きにはさせない!

 

シルヴィーはこの間の粘菌を使って、一種の機械、そして聖別された菊を使って奴らDに対する毒を作った。

 

たぶん、それは一種のバイオコンピューターとシンプルな毒物だ。

 

殺虫剤の材料は菊だって聞いたことがある。

 

また今回も作戦会議だ。

 

愛花さんがシルヴイーに言った。

 

「さっそくみせてもらおうかな。」

 

私達は中庭に出た。

 

 

最近、私達オカルト研が自由勝手に少しの超常現象を起こしても、誰からもあまり気にはされなくなった。

 

と言うのは、アキが言うには

 

「本物の神秘なら人の目から隠れる。悪もまた同じだ。」

 

と言う事らしい。

 

シルヴィーは瓶を取り出して言った。

 

「まずはこちらを見てください、例の粘菌ですが、こちらを培養したところ、コンピューターとしての機能がありました。」

 

粘菌...コンピューター...聞いたことはある…。

 

シルヴィーはバイオコンピューターの説明をしてくれたが、誰もよくわからかなかった。

 

「まずは電源を入れましょう。」

 

シルヴィーがタブレットを操作すると、粘菌の入った瓶がわずかに振動を始めた。

 

シルヴィーは説明する。

 

「刺激によって情報伝達がなされます。」

 

なるほど...

 

「ではここに…。」

 

なんとシルヴィーはメガネ型のデバイスを外して、瓶の中に入れてしまった。

 

彼女が瓶を振ると、中のデバイスがかちゃかちゃと鳴る、振るのをやめても、まだかちゃかちゃと鳴っている。

 

そしてシルヴィーはそれを手にとったまま念じるように目を閉じた。

すると中にあるグラス型デバイスが起動して、地図を映し出した。

 

私はシルヴィーに訪ねた。

 

「実用レベルのバイオコンピューターが、情報端末を吸収して、独り歩きを始めたんですよ。」

 

はい?

 

シルヴィーは微笑んで答えた。

 

「これでおそらくあの翼竜のDを探せますよ、ふふ。」 

 

昨今、人工知能やセキュリティの成長は目まぐるしい。

 

シルヴィーによると粘菌コンピューターは翼竜のイメージをネットワークから探し、それと合うものを衛生のカメラから探す事ができるかも知れない。

 

そして数日後グラス型デバイスとバイオコンピューターは郊外の森を表示した。

 

 

私達は郊外の森についた。途中、翼竜のDを何度か見かけた。木々の上を自由に滑空している。

 

やつらは繁殖に成功しているらしい、竜の教団に捕まったら大変だ。

 

シルヴイーはもうひとつの瓶を取り出して、何か薬品を入れると、それをライターであぶり始めた。

 

すると上空の翼竜が鳴き声をあげてこちらにやって来た、この薬品を焼いた臭いが翼竜たちの食欲を刺激するのかもしれない。

 

Dは木々の間を飛び回りながら、こちらをつついて来る。

 

シルヴイーは瓶を持って逃げ回りながら、ひらりと身をかわしている。

 

 そして翼長が1メートルほどの翼竜にロザリオを投げつけて、太い木に縛り付けた。

 

そしてシルヴイーは言った。

 

「その昔、翼竜を発見した人は、それを悪魔と思ったそうです。たしかに忌まわしい形、創造論者にとっても悪夢です。」

 

創造論者、科学よりも聖書の天地創造を信じる人たちか。

 

そしてシルヴイーは縁が鋭く研ぎ澄まされナイフのような十字架を翼竜に向かって投げつけた。

翼を貫こうとしたそれは、意外にも弾かれた。

 

シルヴイーが様子を見て言った。

 

「どうやらあの翼は学説通り、筋肉の塊.…弱点は翼ではない。翼竜と鳥の最大の違いは、彼らの翼が小指であること。」

 

ふむふむ、なるほど、たしかに指がある。

 

シルヴイーはワイヤーリールを取り出して、それを伸ばすと、手と足に取り付けた。

 

そして彼女はそのアンカーを飛ばして引っ掛け木の上まで飛んだ。

 

飛び上がって十字架を掲げると、Dに向かって振り下ろした。

 

全体重をかけた攻撃だ。

 

十字架がDの腹にめり込んだ、しかし硬い骨がそれを弾いたらしい。

 

しなしDはうなだれた、疲れて来たらしい。

 

シルヴイーが翼竜をロープで縛り終えると、もう一匹がこちらに襲いかかって来た。

 

しかし、もう武器は残っていない、かがんで身を交わすと、アキが翼竜をじっとみた。

 

すると大小さまざまな鳥がやってきて、翼竜の周りを囲んで攻撃を始めた。

 

翼幕や腹を執拗に狙う、鳥たちは群がって翼竜をつつく。

 

シルヴイーが言った。

 

「ドキュメンタリー番組でみました、翼竜の最大の敵は鳥類だったと。」

 

なるほど、翼竜は鳥類との生存に負けたらしい。

 

鳥たちがDを攻撃し弱らせる。

 

アキが操ってるのだろうか、急に集団の走って来る音がした、間違いなく竜の教壇だろう。

 

シルヴイーは縛り上げた翼竜を担いで叫んだ。

 

「貴重な研究サンプルを手にいれました、さあここは逃げましょう!。」

 

白装束に登り竜の模様の着物の集団が私たちの周りを囲み始めた。

 

どうする…どうする…私は右手を掲げて叫ぶ!

 

「Sainte puissance!。」

聖なる光を受けて、土の中から出て来た土竜のように光を恐れろ!

 

聖なる光が現れた。

 

竜の教壇の信者たちは一斉に怯む、しかし長くは持たない、奴等が援軍を呼ぶかもしれない、ここはシルヴイーの言う通り逃げるべきだ。

 

しかし敵は20人ほどの大勢で執拗にこちらを追い駆けて来る。

 

すると上空に鳥が集まって来た、翼竜の血の臭いに反応したのだろうか…

 

上空から朱鷺がやって来た。朱鷺…この地方にいただろうか。

 

朱鷺はアキの肩に止まった。

 

竜の教団の男がアキに手裏剣のようなものを投げた。

 

アキの肩に止まる朱鷺がそれを嘴で受け止めた。

 

竜の教団の信者たちが、アキを囲み始めた。

 

アキは自分を囲む竜の教団の信者たちを見て言った。

 

「ブリジッタ…古の契約の炎の精霊、畏怖される異端の神、灼熱の悪魔…血の盟約を…。」

 

アキは炎の精霊を呼び出す気だ!

 

その時、アキの背中がとても強く赤く光輝いて、彼女の髪が赤くなった。

 

金の鎧の上に白い着流し羽織っていた、それが山の風になびいている。

 

灼熱の悪魔、古の炎の精霊…。モン・ソレイユ、私の太陽。

 

かつて炎と契約した、英雄の魂を身に宿した祖霊英雄の器、私にとって一番身近な人…。

 

アキが天に手を伸ばすと、その手にはまた金の太刀が握られていて、それが引き抜かれると、沈みかけた太陽がまた登るように真夏の昼のような激しい眩しさを放った。

 

しかし、祖霊英雄の霊廟の剣は折れたままだった。

 

アキは剣を片手で構えると、その刀身が赤く煌めき、光がスッと伸び、辺りから焦げた臭いがした。

 

それは私が驚くよりも早くに、現代のレーザー兵器のように正確に標的を撃った。

 

竜の教団の男たちの装束に火が付いて、勢いよく燃え上がった。男たちは呻きながら火を消そうとするも間に合わないようだ。

 

私はとっさに叫んだ。

 

「アキ、もうやめろ!十分だ。殺すことはない……。」

 

戦えば、戦うほどに戦いはひどくなるんだ、むやみに戦ってはいけない。

 

アキは答えた。

 

「殺す…思い出せマキ。こいつらの正体を。」

 

アキは倒れた竜の教団の一人の装束を剥ぎ取った、その姿は痩せこけていて、ほとんど骨と皮だった。

 

日光にさらされた部分は、じりじりと痛んでいる。

 

「魔性の類いと交わり、人の血肉を喰らい、自らをサタンの使徒と名乗る化け物たちだ、人間の寿命などとっくに過ぎてる。」

 

アキはその頭を掴むと、地面に叩きつけた。

 

するとその骨がバラバラに砕け散った。

 

どうやらアキの言うことはショックだけど、本当らしい。

 

アキが折れた剣をいくつも重ねて持っているように見えた、蜃気楼だろうか…。

 

いや、確かに増えている。

 

そして扇子のように束ねて広げた、それは鳥の尾羽のようだった。

 

袖は翼のように、扇は尾羽のように。

 

軽やかに舞うように戦う姿は神話の炎の巫女、そして不死鳥のように、そこにいた全員の視線を惹きつけた。

 

次々に教団の男たちの装束を剥いで、ミイラのような身体をバラバラにしていた

 

すべて片付け終わると、扇を放り投げ、それは機械的に動いて、ペーパークラフトのような鳥の形に変わった。



それもまた不死鳥のように美しく煌めいていたけれど、扇の鳥は教団の男たちの死骸をついばみ始めた。

罪と人間の血肉で汚れて朽ちた身体を、アキの言うブリジッタ、炎の精霊が食い尽くしていった。

 

そして扇の鳥が天に登って帰っていくのを見送った。

 

わー輝かしいけどアキの体は大丈夫?

 

- A suivre !

 

Nouvelles pousses.4

 

Ep 4 Porte de l'enfer.(地獄の門)

 

ボンジュール、マキです!

 

6月、今年もエルモ祭が近づいて来たので、私たちはまた音楽の練習を本格的に始めた。

 

本番一ヶ月前から練習を始める、短期集中型のカーミラ先生の指導は現実的なような無茶なような気もする…。

 

マリア祭につづいて新入生の歓迎、部活動の勧誘はもちろんのこと、各種発表や模擬店がある。

 

ああ、去年はなんとか上手く行ったけど、今年はどうなることやら…。

 

まあ、とにかく私たち三年生とっては最後のエルモ祭だ、がんばるぞ!

 

 

三年生の私達の学年発表は、恒例の聖エルモの冒険の劇だ、毎年脚本はアレンジされる。

 

世間では聖エルモについてほとんど知られてないらしい。

 

修道会に残った彼の記録は正確かどうかわからないらしい、今日の定説と僅かな創作で彩られた物語だ。

 

今日はその主役を決める日で、今、ホームルームが行われているわけだ。

 

クラス委員のクロエが演劇の役割の希望者を集う。

 

「は〜い、では主役の聖エルモやりたい人〜。」

 

返事はなかった、みんなもう高三だぞ、しっかりしろよ〜。次々に意見が出始めた。

 

「だったらクロエがやれば?。」

 

「そーだ、そーだ。」

 

  1. クロエが言った

 

「みなさんお城で育ったの?はい、私がやります!。」

 

お城で育ったの?フランス語のイヤミ言葉だ

つまりうるさいと言う意味である。

 

こうして聖エルモの役はクロエに決まった。

 

「はーい、では聖エルモの侍者、小エルモは-?。」

 

さぁやが真っ先に手を上げた、意外だった。

 

「はい、私が!。」

 

さぁやの目は、恐れと期待にあふれていた。

 

そして、次々と他の役も決まっていく。

 

フォルミアの領主がアキ

 

聖エルモの船を襲う海賊がシルヴィー

 

私は聖エルモを誘惑する、海の悪魔の役だ。

 

物語はこうだ。

 

その昔、聖エルモが当時のフォルミアの領主に、海の悪魔を封じてこいと命令を受ける。

 

魔の海域では、何度も船が沈んでいる。

 

それは海の魔竜の仕業で、人や家畜を食って船を壊して財宝を奪っていた。

 

そこへ魔竜を封じるために船でやって来た聖エルモの旅団が、財宝を探しに来た海賊に出会う。

 

争いの血の匂いで海の魔竜がやって来て、海賊と聖エルモの一団に襲いかかる。

 

小エルモは、財宝の中にあった竜を収める角笛を吹いて魔竜を封印する。

 

聖エルモは海賊たちに罪の許しを与え、国へと戻った。

 

数々の冒険をした聖エルモはやがて殉教するが、多くの人を救った。そして物語は終わる。



 

セリフ読みの練習が始まった。

 

アキはフェルミアの領主の役だ。

 

「おお、エラスムス、よくぞ来てくれた!折り入って、お前に頼みがある。」

 

クロエは聖エルモ、エラスムスだ。

 

「ああ、領主様の頼みとあらば!して頼みとは。」

 

フォルミアの領主は両手をあげて、聖エルモを歓迎して言った。

 

「実は近頃、南の沖合に海の魔物が出ると言う、お前にそれを退治してほしいのだ。」

 

聖エルモは答える。

 

「いやはや、なんとも…相手が魔物とは!出来る限りの事はやってみましょう。」

 

領主は言った。

 

「して、何がほしい?船も家来も食料も用意しよう…金貨か?財宝か?女か?PS4Proか…4Kテレビか…。」

 

聖エルモは答える。

 

「出家の身には、余るものでございます!ただ船と積荷と、おやつにマカロンとスナックととチョコレートとニンテンドーSwitchだけを用意してくだされば!あとストロングチューハイも。」

 

ああ、脚本変えたのシルヴィーだな。

 

 

劇の練習がある一方で、音楽発表も控えているので、毎日が楽ではない。

 

今日も放課後はアンサンブルの練習だ、なんとか去年に続いてフルートをやれることになった。

 

練習して来た甲斐もあったと言うもの。

 

さぁやが廊下で楽譜を見ながらセリフをつぶやく…頭がごっちゃになってる…ひえぇ!

 

大丈夫か!?

 

「さぁ、こい!海の魔物!何にでも変身できると言うなら、おはぎになってみろ。」

 

シルヴィー脚本はどこまでも笑いを取る気らしいな、あいつきっとニヤニヤしながら書いたろ…

 

私はさぁやに答える。

 

「面白い、では化けてやろう…私はおはぎ。」

 

さぁやがおはぎを食べる仕草をする。

 

 

こうしている間にエルモ祭は近づき、工夫した華やかな衣装は出来上がった。

 

生徒の自主性と若い勢いで作ったので、元の話とはやや違ってしまった。

 

そしていよいよ、明日は本番である。

 

放課後、学園の窓から校門をみると、見知らぬ影があった。

 

私は最初、中学生くらいの男の子かと思ったが、さぁやが言った。

 

「いや、たぶん女の子やね。」

 

私達は直接に話を聞く事にした。

 

お嬢様っぽく、素敵なお姉さんらしく行くぞ!行くぞ〜!深呼吸……深呼吸……

 

さあ、お上品に挨拶しようと思ったその時だ、シルヴィーがやってきて微笑んで見知らぬ子に言った。

 

「こんにちは、誰かにご用??。」

 

だめだ、出番返せ!出番返せ!

 

見知らぬ子は口を開いた。

 

「あの…聞いてくれますか。」

 

シルヴィーは微笑んで答える。

 

「はい、なんでしょうエルモ祭なら明日ですが。」

 

見知らぬ子は答えた。

 

「この学校に特異能力者っています?例えば、悪魔と戦うとか…。」

 

シルヴィーは少し考えて答える。

 

「連れていきましょう。」

 

 

私達は応接間にやって来て、名をミライと名乗った子と、愛花さんと向かい合った。

 

ミライちゃんは答える。

 

「…ワケアリで。」

 

ふむふむ

 

愛花さんはミライちゃんをじーっと見つめて言った。

 

「ミライ…ミライ…ご両親は?。」

 

ミライちゃんは答えた。

 

「いないんだ、孤児として育てられた…でも施設を抜け出して来たんだ。」

 

愛花さんは答える。

 

「ええ、どうして抜け出して来たの?。」

 

ミライちゃんは答えた。

 

「実は、とんでもない施設にいるんだ。不気味な所なんだ…誰もが白いローブを纏っていて…。」

 

まさか、竜の教団!?

 

「男の子として育てられたんだ、本当は女なのに…どこかから誘拐された事を隠すためだったかもしれない…。」

 

なんてことを!もしかしてこの間の!

 

ミライちゃんは続ける。

 

「教団を抜け出したぼくは…記憶を辿ってここにたどり着いたんだ…なぜか…。」

 

愛花さんはしばらく考えた。

 

「やや、まさか…でもこれは警察に任せましょう。」

 

シルヴィーも答えた。

 

「ええ、登り竜の羽織とかなんとか…どこかで聞いた気もしますが、ここは警察に任せましょう。」

 

みんな、厄介事は嫌いなんだね!そして警察に解決してほしいのか!

 

なんて正直なんだろう…

 

3日後、ミライちゃんは生き別れの両親の元へ帰った。

 

本当の名前の読み方はミクだったそうだけど、ミライの方が馴染んだ名前らしい。

ミライちゃんか、また会えるかな…。

 

竜の教団には、誘拐された子どもが沢山いるんだろうな…。

 

 

数日後、本番前の最後の稽古を終えて、私達は解散した

 

するとさぁやが演劇のトルコ風の衣装のまま、中庭に出た。

 

マスールルイーズの持っていた小さなトランペットを掲げた。

 

………学園祭を前に、全ての謎を解く気だ。

 

昔、航海の途中で海の魔物を封じたと言う伝説、その悪魔が学園に封じられていて、私達の運命を操り、やがて私達を丸呑みにして食べると言うシルヴィーの仮説を解く時が来たのか…。

 

明日はエルモ祭、保護者やお客さんも来る…

 

前祝いにマスールたちにルヴァンを飲まされる前に決着を付けてやるんだ!

 

さぁやが言った。

 

「さあ、伝説の通りか試してみような…。」

 

アキも衣装のままやってきて鋭い顔をして言った。

 

「いよいよか…。」

 

シルヴィーや他のみんなも衣装のままやって来た。

 

シルヴィーがつぶやく。

 

「特異的な超自然現象が起こる可能性がありますね…まあ誰に見られてもいいでしょう、集団幻覚で住みますし…集団幻覚、ふひひ!。」

 

遠くから見ていた愛花さんの背中が光っている、力を使う準備もバッチリだ。

 

さぁやの吹く錆びついたトランペットの音が鳴り響いた。

 

たぶん古いミサの調べだ。

 

すぐに魔性の気配がした、何かが起こる…。

 

私達は周囲を警戒する、耳に高周波が響く、悪魔の笑い声だろうか…。

 

シルヴィーが特殊な粘菌の入った瓶を取り出すと、とても強く瞬いて光っていた。

シルヴィーは慌てて叫ぶ!

 

「X反応アリ!Dです……他にも何かが…。」

 

アキは答えて叫ぶ!

 

「位置は!?。」

 

シルヴィーはボトルにスマホを突っ込んで言った。

 

「Où est-il?(それはどこ?)。」

 

粘菌はスマホを侵食するのだろうか、機械に寄生していた特殊な菌だ、そのくらい訳ない。

 

シルヴィーはボトルに光る文字を読み上げた。

 

「Lourdes…ルルド、学園の井戸です!。」

 

井戸か、ルルドのマリア像は、蛇を踏みつけていたっけか…。

 

聖書にある女は蛇の頭を砕くと言う記述の再現なのだろう…。

 

アキが私の手を取る。

 

「行くぞ!。」

 

アキが、沈みかけの太陽に手を伸ばすと鳥がやって来た。

 

紅玉と鋼の色に輝く機械の鳥、アキの魂とゴモラの祖霊英雄の刀が合わさったものだ。

 

アキが鳥の足にしがみつくと、高く飛び上がった。

 

私はアキの足を掴んだ。

二人と鋼の鳥は、ドライヤーの風に煽られたティッシュペーパーのように宙に飛び上がって、ルルドの入り口についた。

 

遅れてさぁやと、シルヴィーも駆けて来る。

 

ルルドに着くと激しい地響きと共に、大きな動物が大地を割って現れた。

 

あれが封印されていた物…!?

 

大きさは…20mに近い。

 

ワニのように大きい口、ウミガメのようなヒレ、クジラのような尾…。

 

マスール・ルイーズが従えた首長竜の仲間…?

 

いや、あれは彼女が育てたものだ…。

 

こいつは、聖エルモたちが封印した、本物の海の怪物だ…。

 

シルヴィーが瓶に粘菌とか機械のいろいろ入っているグチャグチャな物を見ながらつぶやく

 

「ふむふむ…あれは…Balances...Lézard moniteur…モササウルス?。」

 

やはりDだ!モササウルス?

 

シルヴィーは続けて言った。

 

「恐竜時代の海の支配者です!気をつけて…。」

 

さぁやが慌てて言った。

 

「なんでこんなことに…私のせいなん…でも、いつかこうなる運命やし!負けられへん!。」

 

そうだ、そうださぁや!私達は聖書の悪の系譜に呪われた運命を持ちながら、悪と戦って来たんだ…!

 

アキの姿はいつの間にか変わっていた、金の鎧の上に白い羽織を纏い、髪は目が覚めるように赤朱鷺色だった。

 

彼女の朱子と言う名前の通り、神社の巫女のような凛とした立ち姿にみとれてしまいそうにそうになる…。

 

美しくて凛々しくて、なぜかどこか儚い…。

 

アキの肩に、紅玉と鋼の色の鳥が肩に止まると、直ぐに形を変えて扇になり、天女の羽衣のように連なり、剣の形になった。



アキはどんどん力を自分のものにしている、でも力を使いすぎると、アキが消えて、祖霊英雄の伝説に飲み込まれてしまう気がする…。

 

そして剣が夕日のように眩しく輝くと、太陽フレアのようなレーザービームをDに放った、そして両手で剣を掲げて、大きく飛び上がり、脳天に向かって斬りかかった。

 

その姿は、ドラゴンと戦う戦士の伝説にも見えた。

 

Dは怪我を負いながらも、海を目指して這って進む、海に逃げて増える気だ。

 

行けない!この世界がめちゃくちゃになる、Dを逃がすと人の世の闇となって、人をどこまでも惑わす…。

 

誰かが駆けて来た、さっきのミライちゃん!?彼女は叫んだ!

「実は私にも力があって、近い未来が解るんだ…こうなることをずっと予言していた…。」

 

なんてこと!実は私もそんな気はしていた!

 

Dは暴れまわり、周囲の建物を破壊しながら海に向かう!

 

私は変身して陰陽師の姿になり、ミライちゃんにぶつかりそうなガレキを光のパワーで弾いた。

 

私はミライちゃんに言った。

 

「そっか…辛かったね、大変だったね…でも未来が解るなら、どうしたらいいか教えてよ…。」

 

ミライちゃんは黙って泣き出してしまった。

 

そんなあ……

 

さぁやが鋭い目で、Dとその頭上で舞い踊るように剣を振り回すアキを見つめている。

 

一方でシルヴィーは映像を録画しながら、鉄パイプにインバーターを接続していた。

 

するとシルヴィーは何かを発射した、もはやそれが何かはわからない。

 

コイルガンのよう物から、なにかを発射したのだった。

 

Dに効く麻酔なのだろうか…。Dは少し大人しくなった。

 

さぁやがつぶやく。

 

「今までで一番、自分の無力さが憎いわ…なぁ…マキの言うモンペールは、私に力をくれへんのかな…。」

 

さぁや…そんな風に思ったらだめだ!

 

心が闇に染まり、かつての私のように悪に体を乗っ取られる…。

 

私は三人を守りながら、Dに光の波動を打ち続ける。

 

アキが遠くで叫ぶ!

 

「海に入られたら終わりだ、きっと再生を始めるぞ…一気に勝負をかける!マキも来い!。」

 

わかったよ…やってやるよ!

 

アキが剣を天に掲げると、真昼の太陽のような輝きを放った。

 

それが孔雀の羽のように広がり、アキの周りに天女の羽衣のように連なった。

 

「俺の命に変えてもこいつを止める…。」

 

アキ、また自分のことを俺って…

 

命に変えてもだなんて、やっぱりアキは…

 

いつかどこかに消えてしまうのだろうか

 

私の庭に突然に現れた美しい鳥…いつか天に帰ってしまうのか!?

 

アキがどんどん人間から遠ざかっていく…

 

アキ…行くな!私を追いていかないでくれ!

 

私は思いのままに叫ぶ!

 

「アキ…好きだ…戻ってこーい!。」

 

ミライちゃんが遠くで叫ぶ!

 

「ああっ…予言の最悪の結果が…!。」

 

その時、目の前が青白く光る、風の天使ツバサくんだ。

 

ツバサくんが言った。

 

「このままじゃ間に合わない!アキがあいつと相打ちになる…きみに風の力を…!。」

 

私の中にいつも以上に聖なる追い風のような力を感じる、これはツバサくんの風の力!?

 

目を閉じて念じればきっと飛べる…。

 

飛べ、風よりも音よりも早くアキの所ヘ…!

 

ーーーここは、Dの正面だ!

 

そして背後にはアキ、アキが叫ぶ。

 

「マキ!どけ、絶対にこいつをここで倒す…呪われた運命もこれで決着だ…。」

 

Dが唸る、口から邪悪な気が溢れる…邪悪なオーラを撒き散らすのだろう…

 

来た!それが雪崩のように襲って来た…!

 

アキがそれを宙に浮いた扇の羽の何枚かで受け止めながらDの喉元に迫る、アキの体はひどく傷ついているのが見てすぐに解る。

モンペール、私の左手には月の影の闇の力、右の手には月の光の力、太陽の光を映す力…

 

今なら解る…。

 

私の力は、魔性と人の戦いを止める力…。

 

私は左の手で、アキの剣を受けて、右の手でDの放つ闇のオーラを受けた。

 

私は叫ぶ!

 

「Décalage!(相殺しろ!)。」

 

光と闇が混沌を巻き起こした、すごい衝撃を感じる…気を抜くと失神しそうだ…。

 

いま、一瞬…マリア様が見えた気がした、しっかりしろ!

 

ツバサくんが私にささやく。

 

「マキ、そうだよ…君の本当の力は戦いを終わらせる力、福音を実現する最も神に祝福された人に許された限界の異能の力だ…そして、黙示録の到来を近くするものでもある。」

 

よくわからないけど…

 

神と人と魔性に愛される力がこの身にあるなら…今それを全力で使ってやる!

 

「モンペール、私の全てを使って、この戦いを止めて!。」

 

突然強い衝撃を受け、眩しさと陰でぐちゃぐちゃに目が眩んだ。

 

少し経つと目の前が晴れて来た。

 

アキが傷ついて疲れている、そしてDも傷ついていた。

 

さぁやとシルヴィーが駆け寄って来る。

 

さぁやのトランペットと、シルヴィーのなんだかよくわからない機械が輝いている。

 

ツバサくんがそれを見て言った。

 

「今の衝撃で、君たちも何かに目覚めそうだよ。」

 

さぁやとシルヴィーは見つめ合った。

 

シルヴィーはにやにやとして、さぁやはきょとんとしていた。

 

愛花さんは遅れてやって来て、アキの傷の手当をしている。

 

彼女の力で育てた薬草ならよく効くだろう。

アキが言った。

 

「グループに回復役がいないとは思っていた…。」

 

愛花さんはゲームなどやらないから良く解らない様子で、アキの傷口に薬を塗っている。

 

「大丈夫?グループ?カイフクヤク?それって何語?スワヒリ語?明日の演劇発表が控えてるのよ…ああ、顔は怪我してない、よかったよかった…だいたいね、あんな捨て身の戦い方ってある?もう少し仲間を頼りなさい、いくら一番強いと言ってもね、捨て身で戦うなんてかっこつけ過ぎ、もう少し現実を見て、地道にやんなさい…ああもう、だいたいあなた朝に弱すぎでしょう…いくらお店の手伝いがあると言っても…授業中に寝てしまうのってどうなの…あーあー縫わないとだめだこの傷。」

 

言い過ぎ!でもありがとう、なんかすっきりた。

 

愛花さんは、能力で作り出した蔦や葉をアキの傷口に当てて止血をして、アキをおぶって去っていった。

 

ツバサくんはさぁやに言った。

 

「さぁ、それを吹いてご覧よ。」

 

ツバサくんは空中に、光を操って楽譜を書き出した。

 

そしてさぁやはオリエントの調べを響かせた。

 

すぐに錆びついたトランペットは砕け散って、光の粉となって風にのって消えた。

 

すると、雨がぽつぽつと降ってきて、あっと言う間に曇り空になった。

 

雨の中、アキを背負う愛花さんが去っていく。

 

さぁやは雨雲を見つめている

 

「雨雲、雨雲、雨雲…。」

 

さぁや…?

 

「もっと…もっとだ…もっとや…。」

 

さぁや…?

 

さぁやの背中が光った。

 

私と同じカインの罪の印と、聖霊の賜物の印だ…。何かの画がうっすらと見えた。

 

今、一瞬、さぁやからマスール・ルイーズと同じ気配を感じた。

 

さぁや…

 

私は、さぁやに右の手を当てて聖なる力を送った。

 

さぁや…君がもしも特別な力に目覚めるなら、それは誰かを守るのもであってほしい。

 

さぁやは、まるで彼女ではなく、破壊の天使が乗り移ったようつぶやく。

 

「天の雷、地上の悪を焼き尽くせ…海の悪魔め、生きては返さない…。」

 

さぁや、力の闇に負けちゃだめだ!

 

人と、交わった堕天使を祖に持つ私達は…

 

破壊衝動に抗わないといけない…さぁや…。

 

ツバサくんが、さぁやの頭に右手を添える。

 

「父と子と聖霊の名において…汝に洗礼を施す。霊名はそうだな…。」

 

ツバサくん…!?

 

さぁやがハッとする。

 

「洗礼!?霊名!?なんで今!?今決めるん!?。」

 

そうか、さぁやも洗礼を受ければ、力の闇に勝てるかもしれない。

 

さぁやが戸惑う。

 

「聖(サン)エルモ!?。」

 

ツバサくんが言った。

 

「いい名前だね、さぁやエラスムス…。」

 

さぁやが言った。

 

「ホントはさやかやから…。」

 

さやか!?

 

シルヴィーもおどろく!

 

「さやか!?。」

 

さぁやが人差し指を天に向かって立てて、弱ったDを指さした、天の雷がDに向かって降りてきて、ぶすぶすと黒焦げになった。

「しびれたやろ?私だってド派手にやりたい時くらいあるんやからな。」

 

怖っ…怖っ…落雷とか怖っ…

 

ええええ…

 

 

それからボロボロになった私達は肩を組んで、学園に戻って、愛花さんの手当を受けた。

 

そしてなんとか、翌日の劇も成功した、本当に身も心も疲れ切っていた。

 

アキは誰よりも疲れていたので、演劇が終わった途端に、愛花さんの部屋に行って休むことになった。

 

エルモ祭の初日が終わると、私はお聖堂に行った、そこにはさぁやがいた。

 

「なぁ、マキ…。」

 

どうしたの、さぁや。

 

「さっきクロエに告白したんよ…。」

 

え!?だから演劇に出たの?クロエと共演したかったのか!?

 

私は答える。

 

「それで…?。」

 

さぁやは笑った。

 

「困っとった。」

 

そっか、そうかもね…うん!モンペール!迷える子羊が多すぎますよ!

 

さぁやが言った。

 

「明日はアンサンブルの発表や。」

 

忘れてた…

 

私はフルートを持ってきて、さぁやが前の学園から借りたままのトランペットで、いつかルルドで歌った、あめのきさきを演奏した。

 

いつの間にか、ツバサくんのコーラスが入って来た。

 

音を聞いて、愛花さんがやって来てピアノを弾いて、クロエもヴァイオリンを持ってやって来た。

クロエはさぁやをみると、目を丸くした…。

 

しかし、直ぐにヴァイオリンの演奏で仲間に加わった。

 

シルヴィーもやって来て、変な電子楽器、たぶんテルミンか何かの演奏を始めた。

 

アキが寝巻き姿で、聖堂にやって来た。

 

みんなが演奏しているけど、私は手を振って指揮を始めた。

 

そうして、寮生たちがみんな次々に楽器を持ってやって来た。

 

モンペール、私はたぶん…ずっと一人じゃないよ。

 

あ、ツバサくん!私のフルート吹いてる!めちゃ上手い。

 

フルートの意味は風の竪琴

 

A  suivre!.

 

Nouvelles pousses.5

 

Ep 5 Je suis ton aile.(ぼくはキミの翼だ)

 

夏だよ!マキです

 

七月、エルモ祭も終わった。

 

学園の三年生は、最後の大会や発表や受験に向けてこの時期にがんばる。

 

まあ、だとしてもみんな去年よりは張り切っている、だって高校生の夏も最後だからな〜

 

と言うわけで今日もまたがんばるぞ!

 

 

ある朝、通学路で上空に見覚えるのある影を見た。

 

あれは飛行機とはちょっと違う、だって羽ばたいているのだから…

 

思い出した、あれは翼竜の"D"だ!

 

嫌な予感がする、もしかして竜の教団は翼竜のDを飼いならし、学園の位置を空から探っている?

 

何かレーダーかカメラのようなものが取り付けられている…間違いない!

 

大変だ、もう授業や部活どころじゃないけど、日頃のこともきちんとしないと戦えない、それに私はいつだって一人じゃない。

 

後ろからアキがやって来た。

 

私はアキの肩を掴み、上空を指差す。

 

「アキ、あれ!あれみて!Dだよ、翼竜…。」

 

アキはそれを見上げると

 

「たまたま…。」

 

とぼやくように言った。

 

気がつけばこんなやり取りも日常になっていた。

 

 

そうしている内に、ホームルーム。

 

授業、昼休み、授業、ホームルームと一日は過ぎてゆく。

 

学園の敷地は森の中で、コンクリート舗装されていないので、街中よりも涼しくエアコンはほとんど必要ない。

 

放課後、オカルト研に集まると、やはり今回の課題は空を飛ぶDの対策である。

 

シルヴィーが机に、アナログ無線のような機械を散らかして言った。

 

「はい、と言うわけで今回もあれ、上空のDを撃ち落とそうと思うんです!。」

 

また急な話だけど、やって見る価値はある…。

 

寮の庭から空を見上げると、やはりDはいる。

 

上昇気流に乗って、ぐるぐると回ったりするものもいれば、たまに勢いよく飛び去って行くものもいた。

 

この世界はDとそれを操る竜の教団に支配されつつあるのだろう。

 

そしてシルヴィーはドローンを持ち出した。

 

大型のドローンを飛ばせば害鳥を追い払うことが出来るとテレビで見たことがある。

 

ドローンが起動する、激しいプロペラ音を規則正しく響かせて浮上した。

 

音波が響き渡ると、翼竜の飛ぶバランスが乱れた。

そしてシルヴィーはインバータに繋がれた鉄パイプを持ち出した。この間のコイルガンだ!

 

勢いよくポン!と言う音を立てて何かを発射した。しかし外れた…

 

飛ぶものを射撃するって難しいんだな。

 

シルヴィーは少し黙り込んだあと

 

「まあ、こう言う事も。」

 

と行った途端に、弾頭が爆発した!

 

衝撃で翼竜は墜落した。

 

そしてシルヴィーはそれを持ち去って部室に戻ったので、私と、さぁや、アキの三人は追って部室へ戻った。

 

教室の机の上に生きたままのDが縛り付けられている。

 

私はシルヴィーに聞いた。

 

「どうするのこれ…。」

 

シルヴィーは工具や電子機器を用意しながら私に目を合わせずに言った。

 

「利用価値を確認します。」

 

利用…?

 

「ここにドローンがあります、以前に採取したサンプルやX菌類と融合させて、Dの肉体も融合させます。」

 

なんてことを!

 

「そして私は空を飛ぶんです。」

 

 

三日後、シルヴィーはそれを完成させた。

 

これからそれを試すために、H山の山頂までロープウェイに乗る。

 

頂上からいざ飛行と言うわけだ。

 

オカルト研の部員たちは、レーシングスーツを纏ったシルヴィーに機材一式を持たされると、言葉少なくロープウェイに乗った。

 

アキがぼんやりと呆れたように言った。

「どうなってもしらないぞ。」

 

さぁやも言った。

 

「引き返すなら今のうちや。」

 

私はシルヴィーの肩に手を当てる。

 

せめて私はシルヴィーの挑戦を応援したい、それに私には物理衝撃を止める月の光の力もある!

 

「シルヴィー、飛べ!戦いだけじゃなくて、キミの挑戦に意味があるんだ、だから飛べ!もしも…縁起でもないけど、もしも墜落しても、地面に叩きつけられる前に、この手で衝撃を受け止める!。」

 

アキが白けた顔で拍手をすると、シルヴィーはいつになく静かに感動している様子だった。

 

そう話している間に、ロープウェイは山頂に着いた。

 

山頂に付くと青白く光る少年がいた、いつも絶妙なタイミングで現れる風の天使、ツバサくんだ。

 

ツバサくんはシルヴィーを見つめて言った。

 

「さあ、いよいよだ。科学と言う網で、神秘と言う蝶を追いかけ続けたキミの努力が報われる…ぼくに出来ることなんて限られてるけど、いつまでもキミに追い風を送り続ける、今日は飛ぶにはとってもいい風だ。」

 

シルヴィーは涙をこらえて言った。

 

「Je vole dans le ciel!(飛びますよ!)。」

 

シルヴィーはドローンのタンクに、X粘菌から作った燃料をドブドブといれた。

 

それを背中に背負うと、アタッチメントで固定して、レバーを引くと、機械的に翼が展開した、それは翼竜のDの骨で出来ていた。

 

エンジン始動、翼が羽ばたきを始め、ドローンのプロペラが回転する。

 

エンジンと 電子モーターの両方の音がする。

 

イヤーマフの圧力調整をして、グラスデバイスのバイザーが展開した。

 

そして、風を受けて両手を広げる。

 

シルヴィーが力強く言った。

 

「3.2,1.0.décolle!。」

シルヴィーは離陸した、紙飛行機の様な軌道で、滑空を始める。

 

私は全力で走る!

 

物理反発の力を脚に!

 

走って地面を蹴る衝撃を強くするためだ、うんと強くなれ!

 

私は一瞬、風よりも早く走った。

 

そしてシルヴィーの真下に回り込んだ、落ちた時に受け止めるためだ。

 

いけない!落ちそうだ!羽ばたけ!羽ばたくんだ!

 

そして主翼が強い羽ばたきを始めた、強い風が上から来るのがわかる。

 

シルヴィーの背中が光った、正確にはシルヴィーの背中のドローンの燃料が光っている。

 

翔んだ!

 

そのまま大空に飛び上がって、学園の方に羽ばたいて飛んでいった。

 

私は叫んだ!

 

「Silvie! Tu es comme un ange!  Ayez des ailes sur le dos!。」

 

キミはまるで天使だ!背中に翼がある!

 

さぁやとアキも後ろで何か叫んでいる、あの二人も走って追い駆けて来た。

 

学園に付くと、シルヴィーは尖塔の聖ミカエル像に片手で捕まっていた。

 

ツバサくんが彼女の頭をなでていた。

 

シルヴィーがぽろぽろと泣きながら言った。

 

「Je...Je me suis rapproché de toi?Je t'aime, mon ange du vent!(私、あなたに少しでも近付けましたか?愛してます、私の風の天使!)。」

 

ツバサくんは答えた。

 

「Oui, merci beaucoup.Mais ne sois pas fou, tu vas mourir.

Viens au paradis quand tu seras vieux, et je viendrai te chercher à ce moment-là. Je promets.

(はい、どうもね。でも、無茶しないで。天国にはずっとババアになってからおいで、その時は迎えに行くよ、約束だ。)。」

 

シルヴィーの主翼は片方折れて、もう飛べなくなっていた。

ツバサくんがシルヴィーに手を伸ばすと、彼女は手を取った。」

 

そしてツバサくんのローブの背から、青くて白い、小さな翼が現れて二人はふわりと着地した。

 

「Je ne peux pas voler dans le ciel mais j'ai des ailes.。」

 

そうだきっと、うまく飛べなくても誰の心にも翼はあるんだよ

 

モンペール、私の庭には天国の鳥が、あなたの天使がたくさんいます…。

 

ふっと、アキが私の肩に手をおいた。

 

アキ…。

 

「このままじゃシルヴィーにヒロインの座を取られるぞ~。」

 

ホントだ!普段あんなシルヴィーが今回普通に正統派ヒロインだった…。

 

うわぁ、怖い!怖い!嫌だ嫌だ…。

 

さぁやが私の肩に手を置く。

 

「やめさせんかったっの、愛花さんに怒られるやろな。」

 

モンペーーーール!

 

愛花さんがすごい勢いで走って、まっすぐに、私の所へ駆けて来る。

 

モンペーーーーーーール!!

 

à suivre.

 

Nouvelles pousses.6

 

Festival de musique.(音楽祭)

 

8月、夏休みは過ぎて行く。

 

私は人知れず悪と戦い、時にそれから追われ、それでも学園生活をしっかりこなすと言う毎日を続けていた。

 

音楽部のアンサンブルの練習が終わり、中庭に出て背伸びをする。

 

帰るか…そう思った時にクラスメイトのエステルが言った。

 

「なんかさ、また最近出るらしいよ。」

 

エクリプスに続いて、学園内ではまた怪人の噂が出始めた。

 

私はエステルに聞き返す。

 

「また怪人?Monster?。」

 

エステルは答える

 

「美少年。」

 

美少年か…

 

 

それから頭の中に美少年と言う言葉が響き続けたけど、それは現れた。

 

やはり心の何処かで現れる気はしていた。

 

夕暮れ時の音楽部の活動の帰り、ちょっときれいな同い年くらいの男の子がいると思ったら、ふっとすれ彼とすれ違ったユーチューバー風の若い男が倒れた。

 

何だ、命を吸い取った?あれは…Dの能力?

 

私はそれと目があった、どこからどう見ても普通の少年である。

 

しかし、なぜか本能的に恐れを感じる。

 

果たして人間なのだろうか…。

 

それは民家の日陰からこちらを覗き、突然に話しかけて来た。

 

「また会えたね。」

 

また、会えた?初対面のはずだ。

 

私は彼に質問をする。

 

「きみ、誰?。」

 

すると彼は答えた。

 

「僕は"運命だよ。」

 

運命…?Le destin?

 

私はまた彼に質問した。

 

「その人、倒れてるけど…助けないの?。」

きっと、たまたま倒れただけ、彼の名前が運命だっただけだ。

 

しっかりしろマキ、弱い心は悪に付け込まれる。

 

「ああ、この人?大丈夫、死にはしないよ。」

 

どう言うことだろう、まさか…。

 

彼が、倒れている人の背を撫でると、彼の指が光っていた。

 

そして彼はその指の光を口へと運んだ。

 

「大丈夫、少し命を吸い取っただけさ。」

 

何者なんだろう、味方じゃないとは思うけど!

 

今、一瞬何か聞こえた。

 

頭の中に。直接声が聞こえる。

 

ーー逃げて、逃げて、マキ。ミライです、マキ、逃げて!

 

ミライ、みーちゃん?

 

これはみーちゃんからのテレパシーだ!

 

未来を予言できる、みーちゃんからの警告のメッセージだ

 

あいつ、相当ヤバイらしい。

 

私は全力でその場から逃げ去ろうと走り出す、しかし逃げても逃げても、彼の気配が消えない。

 

私はみーちゃんに心の声を送る、みーちゃん、どうしたら良い。

 

逃げてもなかなか振り切れない、今わかっていることを教えて!

 

みーちゃんからすぐに返事が来た。

 

ーーーたぶんあいつは私達と同類、でもなにか違う…半分、半分、違うものだ。

 

半分だけ違う?

 

まさか…半分、D!?

 

私は何処かで彼を見た記憶がある、デジャヴなのか本能が危険と告げるのか…。

 

「エクリプス!。」

私は物陰に隠れると、月蝕の影の力で、影から影を渡り歩いた、エクリプスの影渡りの力は逃げ隠れるのには最適だ。

 

そして家へと帰った。それにしてもあんなのがいるなんて…。

 

エルモ祭に続いて、大事な事の前にも後にも悪いことが起こっている。

 

最後のアンサンブルの発表も、Dとの戦いも、正体不明の美少年も全部大切な事だ。

 

 

翌日、音楽部の練習が終わると、オカルト研に愛花さんと、みーちゃんも加えて会議となった。

 

みーちゃんは二学期から聖エルモに転校して来る事になった、愛花さんの趣味でお人形さんのようなワンピースドレスを纏っている。

 

高校生だったのか、てっきりもっと小さいと思っていた。

 

きっと、不自由な環境、竜の教団に囚われて育ったせいだ。

 

みーちゃん、これからは何も心配しないで!

 

私達が付いてるよ、少なくとも愛花さんは君の頼りになるよ!

 

私はなんとか、みんなに昨日あった事を話した。

 

みーちゃんも補足で説明してくれる。

 

一通りこの間のことを話した所で、みんな一気に黙ってしまった。

 

そして時間は過ぎて結局結論は出なかった、ただ決まっことはあれに出会ったら逃げるべきと言うことだった。

 

 

そして時間は過ぎてコンクール当日となった。

 

私達は早朝から楽器を準備してバスに乗って、市民会館に到着した。

 

ホワイエからホールに楽器を運搬する時、みんなの顔は緊張と期待でいっぱいなのがわかった。

 

しかし、さぁやの顔は暗く、なぜか今朝はほとんど話さない。

 

私はさぁやの肩に手を当てて聞いた。

 

「さぁや、どうした?。」

さぁやの肩は震えていた。

 

「あれ、あれみて。」

 

さぁやが指差すのは音楽コンクールのプログラムで、中にはさぁやの出身地の名前があった。

 

私は思い出して言った。

 

「まさか…、さぁやが前にいた学校?。」

 

さぁやが答える。

 

「そう、私が前にいた学校、スパルタな吹奏楽部やった、特別出演で登場なんてばかげてるわ。」

 

特別出演か、いかにも田舎の町おこし。

 

毎年避暑のために都会から来てるさぁやの前にいた学校は、優勝をさらっていくかもしれない。

 

でも、こうなりゃ受けて立つぞ。そうだよね、さぁや?

 

さぁやは楽器を抱えたまま表へ出てしまった。

 

プレッシャーに耐えきれずにトランペットを抱えて逃げ出すさぁや、一年生のうちの何人かが、さぁやを止めようとする、さぁやが不機嫌そうに言った。

 

「気分が悪い、ちょっと外すわ。」

 

さぁや…

 

 

私達の出番ギリギリになっても、さぁやは戻って来なかった。

 

会場内を探し回ると、さぁやは前の学校の人たち四人と言い合いになっていた。

 

よく聞くと言い合いと言うよりはちょっとマウント取られている様子だった。

 

田舎だとか、何もないとか、なかなか勝手に言ってくれている…。

 

まずい、このままじゃ私達の演奏もめちゃくちゃになってしまう、この日のために頑張って来たのに…!

 

さぁやは、さぁやは…お前たちみたいなのに文句つけられた時に、ペースが乱れるんだぞ…

 

さぁやも何とか言い返せ、この。さぁやが口を開いた。

「ハンパもんがよ…。」

 

ああダメだと思った私は、さぁやの首根っこを掴んで連れ戻した。

 

さぁやが悔しそうに言った。

 

「なぁ、マキ。人生は受難の連続やね。」

 

そうだね…。

 

「でも、乗り越える、聖エルモは生きたまま腸を抜かれる受難にも耐えたからね、ちょっとくらいバカにされるのが、なんぼのもんだ。」

 

さぁや…

 

シルヴィーが、電子機器が繋がれたヘルメットを持ち出してきて言った。

 

「おっと、その様子ならこれは必要ないようですね。」

 

そもそも要らないです。

 

 

控室でのチューニングが終わると、ホールスタッフが来て言った。

 

「聖エルモ学園さん、どうぞ。」

 

そう言って二枚扉を開けようとすると、アキが右手を顔の高さまで開けて言った。

 

「止めろ、私はいざと言う時、自分で扉を開けなくては気がすまない。」

 

アキの中の祖霊英雄が話しているようだ。

 

「マキ、一緒に扉を開けよう、俺が右で、君が左だ。」

 

アキ…、なんだよ。かっこつけすぎかよ。

 

あー!本番前だぞ、何言ってるんだよ、もう!

 

アキと一緒に扉が開くと、足並みを揃えて二人でステージへと歩んだ。

 

スタンバイが終わり、カーミラ先生の合図で、みんなの背筋が伸びる。

 

演目は私達の学校と同じ名前の、【聖エルモの火】この日のためにずっと練習して来た。

 

私達のレベルに大幅にアレンジされているけど、上手く纏まるように頑張って来たつもりだ。

 

タクトが振られてトランペットが響く、船乗りに朝を告げるように気持ちよく鳴り響く、ひとつひとつ、楽器が加わっていく。

 

荒波に立ち向かう船が進んでいくイメージの旋律を、私達は集中して演奏する。

 

集中しているとあっと言う間に、楽譜の次のページ、次のページへと進んでいく、一部の乱れもなく曲は進んでいく…。

 

神様は人に命を吹き込んだと言うけど、私達は今、音楽に命を吹き込んでいるんだ。

 

頑張って来たのはこの数カ月だけど、ずっとずっと長い間、音楽を続けて来た気がするんだ。

 

ここは私の大事なパートだ、嵐の前の静けさを表すように、高く響けフルート!

 

ん…光?光が見える。

 

会場のライトじゃない、さぁやの背中が光っている。

 

聖エルモの因果か、さぁやの能力が発動したのか。

 

空間が歪んでいる、いま、一瞬聖エルモが見えた気がした。

 

曲は進み、終わりへと近づく。

 

指揮のカーミラ先生が掌を閉じて、会場から拍手がわっと響いた。

 

そして立ち上がると会場の席の一番向こうの人の顔まで見えた。

 

しかし、突然に荒れ狂う波が見えた。

 

さぁやの背中が強く光り輝き、笛を吹く少年と海、そこから現れた竜、そして落雷の模様が見えた。

 

なぜだ、まさか…これはさぁやに宿るものの記憶!?

 

この感じ、前に私達がエクリプスの世界に行った時と同じだ。

 

聖エルモと海の竜、その謎がようやく解る。

 

伝説の真実が…!

 

続くよ!à suivre

 

また異世界

 

Nouvelles pousses.7

 

Aventure fantastique.(冒険しようファンタジーだ)

 

ボンジュール、マキです。

 

これは真夏の夢?

 

 

コンクールでの演奏が終わると、私達はいきなり波に飲まれてしまった。

 

私は波に飲まれながら陰陽師の姿に変身する。

 

月の光と影の、私にだけ使える力だ。

 

波よ、納まり元に戻れ!凪になれ!

 

月の力なら引き潮を起こせるはず…。

 

波が引くと気がつけば一瞬で、景色が変わっていた。



目の前には港がある、天は雲一つない快晴。

 

H市じゃないし、現代でもない。

 

ここは…古代か中世の…オリエント!?

 

石畳の続く港に帆船が止まっている、あちこちでターバンを巻いた男たちが荷物を運ぶ、馬車や奴隷や商人が行き交っている。

 

またとんでもない所に来てしまったらしい、とりあえずオカルト研の仲間たちを探そう。

 

誰か他にも来ているかもしれないし…しかし、探そうにも当てもなく歩くしかない。

私はみんなの名前を呼ぶ。

 

「アキー!シルヴィー!さぁやー!愛花さーん!ツバサくーん!。」

 

すぐに目の前が青白く光る。

 

風の天使、ツバサくんが現れた。

 

ツバサくんは私をじっと見て言った。

 

「ここはどうやら、聖エルモの時代のイスタンブールだ。」

 

イスタンブール、トルコか。

 

私はツバサくんに質問する。

「みんなはどこにいるのかな?。」

 

ツバサくんは答える。

 

「心当たりはあるんだ、よし探しに行こう!。」

 

 

私とツバサくんは古代のイスタンブールを歩き続けた、ツバサくんの通訳で何とかオカルト研のみんなの手がかりを探している。

 

現地の漁師の話によると、聖エルモの船に私のような珍しい外国人がいるとの事だったので、そちらまで歩くことにした。

 

すると、シルヴィーらしき人が小さな船の上の樽に腰を掛けているのが見えた。

 

あの聖エルモの修道服、間違いない。私は彼女に呼びかけた。

 

「Un pour Tous.。」

 

ひとりはみんなのために!

 

彼女は答えた。

 

「Tous pour Un,しかし女性だけの団体の場合は、une pour toutes,と言いましょうね。」

 

間違いない、テレジアおとめ教会博士・聖銀希星・橋本!

 

シルヴィーはツバサくんを見つけるなり、船から岸へ飛び降りて、ツバサくんを抱きしめて、しばらく離れなかった。

 

 

三人は残りの仲間を探しに行った。

 

シルヴィーがグラス型デバイスを操作して、さぁやとアキの反応を辿る。

 

港の中央の大きな船の中に、彼女たちはいるらしかった。

 

とぼとぼと歩いていくと、豪華な船が見つかった。

 

ローマ風の豪華な服を纏う、男性が船の傍らで、男たちに荷物を運ばせている。

 

きっとあれは、どこかの商人か領主だ。

 

よくよくみると、アキに似ているような…

 

いや、気のせいか。いや、やっぱりそうだ!

私はアキによく似た人に呼びかけた。

 

つぶあんか、こしあんか。」

 

そして答えが返って来た。

 

つぶあんの方が作るのは大変だけど、美味い。」

 

アキだ、間違いない!

 

あとはさぁやと愛花さんを探さないと…。

 

アキはなんと、エルモ祭の時と同じようにファルミアの領主だった。

 

さぁやは、アキの船の楽隊の一人になってった。

 

私達が事情を説明すると、さぁやはまるでもとに戻ったかのように、私達の仲間に加わった。

 

そして近くの修道院で愛花さん、下町でみーちゃんと合流したところで、視界がぼやけて来た。

 

 

どうやら現実に戻って来たらしい、私はステージで演奏を終えて、控室へと戻っていた。

 

アキも、シルヴィーも、さぁやもちゃんといる。



もしかすると私は演奏後の酸欠で幻覚を見たのかもしれない、でもこのままじゃ終われないのでオカルト研の三人に聞いてみた。

 

「ねえ、演奏したあと幻を見なかった?。」

 

三人は少し黙ったあと、シルヴィーが言った。

 

「例えば聖エルモの時代のイスタンブールの幻とか?。」

 

どうやらやはりあれは一種の予言だったらしい。

 

しかし、それを確かめるのは後だ。

 

他のグループの演奏を聞こう、そして結果発表を待つんだ!

 

 

結果、聖エルモ学園は特別賞を受け取った。

 

特別賞は他にも三組いたのだけど、きっとなんの賞ももらえないより良かったのだ。

 

何人かがやりきった安堵感と達成感で涙を流している。

 

コンミスのクロエだけは悔しそうな様子で言った。

 

「私のキャリアはもっと輝かしくなくてはいけない…。」

 

いつもなら、偉そうなクロエもこの日だけは本当に悔しそうだった。

 

ツバサくんならこんな時、君は輝いてるとか言えるんだろうけど、私にはちょっと無理だ。

 

愛花さんがやってきて、みんなを笑顔で労う。

 

愛花さんはクロエを見て言った。

 

「見てたよ…えらいね…頑張ってたもんね…良かったよ。」

 

愛花さん…私まで何だかこみ上げて来るものがあった。

 

私達、やり遂げたよ!ありがとうみんな!

 

à suivre!

 

Nouvelles pousses.8

 

Stigmates et cadeaux.(賜物と聖痕)

 

ボンジュール、マキです。

 

あれから私は何度も聖エルモの時代の夢を見ている。

 

夢の中で冒険をしている。

 

ずっとずっと…

 

夢から覚めて、朝起きて、学校に行く…

 

高校最後の夏休みも終わって、9月になった。

 

 

音楽のコンクール活動が終わったので、これからオカルト研の時間を増やせる。

 

みーちゃんが来て、五人になったオカルト研は前にも増して未知と神秘への挑戦を続けた。

 

ある日、シルヴィーはまた妙な機械を持って来た。

 

ヘルメットに電極が着いたようなものだった。

 

おそらくあれは催眠装置だ。

 

四人が黙ってシルヴィーを見る、愛花さんもやって来てシルヴィーを苦い顔で見た。

 

そしてシルヴィーは沈黙を破って言った。

 

「X菌を流用して作った夢を接続するマシーンです、私達の見る不思議な夢を接続して、データとして保存、確認することが出来ます。」

 

すごいぞシルヴィー!これですべての謎がきっと解ける。

 

そして、修道院から簡易ベッドを持ってきて、私達はシルヴィーの装置の実験台になってしまうことになった。

 

はじめは恐ろしかったが、やはり人間は横になると眠たくなって来る。

 

果たして本当に謎が解けるのだろうか…。

 

 

海が見えた、これはきっと夢だ…。

 

ここはきっと南の海で、水平線の向こうまでがコバルトブルーだ。

 

そしてこれは古い古い帆船だ。

 

私はどうやら私は船乗りの一人らしい、たぶんここはどこかの孤島だ。

 

船は進んでいき、小さな島に上陸した。

 

島の密林を奥へ奥へと進むと、巨大な人骨があった。

 

船乗りたちが次第に叫ぶ、叫ぶ。どうやらこれが目当ての宝だ。

 

その巨大な人骨が目当てなのか、海賊がやって来たらしい。

 

刀をもった三十人ほどの海賊が襲いかかって来る!

 

海賊は私達の仲間のうちの一人をみて、頭を垂れた。

 

自分の今までの行いを神に懺悔するようにだ。

 

その仲間の一人は頭に光が差しているようで、聖人を思わせた。

 

あれはきっと、聖エルモだ。

 

 

私達は冒険を続けた。

 

巨大な人骨をあちこちで見つけながら、孤島の密林を奥へ奥へと旅した。

 

どこかで見たことがあるような碑文が多くある。

 

あれはきっと、私たちの背中の文字…。

 

島の一番奥の遺跡へと入る、足場が悪くて狭くて暗い遺跡を奥の奥まで進んでいく

 

途中、草木や泥が私達の行く手を阻む。

 

遺跡の最深部には、光が差していた。

 

外へ通じているのだろうか…いや、違う。

 

宝石だ、光り輝く宝石や、宝具だ。

 

その下には一際大きい人骨が転がっていて、肩から翼の骨格が見える。

 

天使の遺体…?

 

バラバラだった白骨が繋がっていきガイコツがカタカタとささやく。

 

「よく来た、私の子孫よ、私は…。」

 

子孫…やっぱり私達は堕天使と人間の子孫だ。

 

「私は堕天使ルシフェル…。」

 

ルシフェル、驕り高ぶりで天界を追放されて地獄に落ちて、悪魔たちと共に天界を滅ぼそうとした堕天使だ…。

 

ルシフェルが囁くと傍らの宝具が輝く。

 

「一人につき一つだ、受け取れば私の力の一部を引き継ぐ…。」

 

私達の力の根本の正体は堕天使の怨念と力の名残、天界への戦いの為に残された堕天使の力だ、力は一人につき一つか。

 

一人、一人と宝石を手に取ると、それは宙に浮かびそれぞれの心臓に入って消えていった。

 

十ほどあった宝石がすべてなくなった所で、大蛇がやって来て誰もが慌てふためいた。

 

まだ力の使い方がわからない私達は、一人、二人と大蛇に飲み込まれてゆく。

 

自然界では動物は生まれたばかりの時、必ず捕食者に狙われる。

 

蛇は私達を狙っていた!

 

まるで土ネズミの巣の赤子を狙うように…。

 

聖エルモが祈りを唱えると大蛇はひるんだ。

 

しかし、一つだけ残った、弱く輝く水晶の様な宝石をかすみとって逃げ去った。

 

ああ、今、全てわかった。

 

現代で特別な力を持つ私達の正体は堕天使の子孫、そして敵はその力を狙うサタン、蛇。

 

この間に出会った不思議な少年は、竜の教団を影から操る蛇の化身だ…。

 

 

目が覚めた、ここは聖エルモ学園だ。

 

オカルト研の皆は次々に装置を外し、同じような夢を見たことを確認し合った。

 

それぞれがひどく顔色が悪く、みーちゃんに至っては目も当てられない様子で、愛花さんはみーちゃんを抱きしめて背中をさすっていた。

 

それぞれの全身に、碑文の文字が光り輝いて浮かぶ、今ならはっきりと読める…。

 

カインの末裔、原罪を背負う、ゴモラの末裔、堕天使の末裔、神からの責め苦ばかりだ。

 

シルヴィーは凛と立ち上がって、手元のタブレットを取り出して言った。

 

「やはりみなさん、同じ様な夢を見ましたか、先祖の記憶が呼び戻された様ですね。これからそれぞれの脳波を解析して今までわかったこと、こらからの事をまとめます。みなさん、私達の勝利はきっと遠くありません。いつの世も影から人を騙し、欺き続けるサタン、蛇。エバの末裔として、聖書の通り彼らの頭を砕いてやりましょう。」

 

夕日の指す窓からの光に照らされたシルヴィーはエデンの園に生まれたエバか、ヴィーナス誕生の絵画ようにもみえた。

 

そのデジャヴのせいか、一瞬、彼女の姿が全裸に見えた。

 

私達はお互いのことが裸に見えるほど、お互いのことをわかりあった気がする。

 

アキが寝ぼけた様子で言った。

 

「腹減ったな、トンカツでも食べに行こう、うどんもいいな。」

 

さぁやが呆れて言った。

「ぶち壊しやな、ええよ、みんな腹減っとるやろ?。」

 

みーちゃんが泣きながら愛花さんに抱きついて言った。

 

「食べるよぉ…。」

 

愛花さんがみーちゃんの肩を揺らしながら言った。

 

「はいはい、わかったからもう泣かないよ。」

 

 

お腹を好かせた私達が街へと歩き出すと、目の前が青白く光り、風の天使ツバサくんが現れた。

 

「みんな、今日まで本当によく頑張ったね。この時代、この地域での悪との戦いは最終局面だ、ぼくも全力で手助けする、もしも君たちが悪に負けることがあれば…。」

 

あれば…?

 

「神様はため息をついて、きっとこの世を新しく作り直し、誰もがほとんどすべてを忘れて、味気ない世界が始まってしまう…。」

 

まさか、黙示録の実現…?

 

「そう、神は人にこの世界を治めることを求められる、悪が蔓延ればまるごと刈り取られてしまう、ゴモラもそうだったよね。」

 

そうだ、ゴモラは破壊の天使、エクリプスが滅ぼした…。

 

この街を、この国を…この世界を…ゴモラの二の舞いにするもんか。

 

私達が悪に負けたせいで、黙示録が来てたまるもんか!

 

真っ白く洗濯されたシーツのような世界は嫌だ!

 

天を追われて、悪魔に誘惑されて、天に逆らい、地に落ちたこの命は…

 

天と地の戦いを終わらせるために、輝くはずだ。

 

そうだよね、アキ?

 

アキは言った。

 

「腹減ったな。」

 

…モンペーーール!

 

私もお腹が空きました。

 

夕月に手を透かしてみると、福音書の言葉が浮かんだ。

 

Matthieu Gospel Vingt huit Vingt,

 

Je serai avec toi jusqu'à la fin du monde.

 

マタイによる福音書、28:20

 

私は世の終わりまであなたがたと共にいる

 

à suivre!

 

Nouvelles pousses.9 

 

Fleurs dans le jardin de mon père

 

(最終回、父の花の庭)

 

 

ボンジュール、マキです。

 

私達はあと何度、仲間たちにボンジュールと言えるだろう。

 

十月、学園生活の最後の秋はくれてゆく、シルヴィーが私達の夢の解析を終えた。

 

導き出された結果は、私達、神の賜物の力と聖痕を持つ私達が、竜の教団を滅びすと言うだった。

 

聖書の創世記の女と蛇が敵対し合うと言う記述の通りの結果が出てしまったらしい…。

 

作戦は翌日との事だ、頭が追いつかない…でも戦いは明日…戦いは明日…。

 

その言葉が頭を回りづけ、簡単な荷物を用意して休む支度をした。

 

みーちゃんはお留守番だ、彼女は敏感すぎる所があるし、未来を予言する力は勇気がなければ戦いには使えない。

 

 

早朝、私達は愛花さんの運転する学園の車で田舎道を進んだ。

 

トランクにはシルヴィーが作った武器や計器がうんと積んである。

 

警察に職務質問された際には、聖痕の力を使ってでも振り切るつもりだ。

 

教団の施設に到着すると、午前五時だと言うの明かりが灯っているのが見えた。

 

シルヴィーが静かに言った。

 

「Début de la mission.(作戦開始)。」

 

私は朝の月に両手を伸ばして、一瞬で陰陽師の衣を纏う。

 

「Transformer!(変身)。」

 

そして右手を振り下ろす!

 

「Gravité de la lune!(月の重力)。」

 

月よ、神に最初に作られた光。

 

私の命を吸って、悪と戦う力を…!

 

私は集中して、教団の施設を月の引力で引く、教団の扉が開かれ、窓と言う窓が次々に割れる。

 

ーーアキ!

 

アキも金の鎧の上から神社の巫女の衣装を纏ったような姿に変わっていて、アキが朝日に手を伸ばし、引き寄せる様に手を振ると、朝日が登って来た。

 

アキの命を生贄にして、真夏のように眩しい太陽が登って来るのがわかった。

 

教団の施設の中から、悲鳴が聞こえて来る。

 

教団の信者たちの殆どが不老不死の怪物、聖なる太陽の光に照らされて、邪悪な蛇の血を次ぐ者たちは苦しんでいる。

 

「ギィ…ギィ…ビィ…フゥーッ…。」

 

と爬虫類の息のようなうめき声が聞こえて来る。

 

鳥肌が立って来た…来る!

 

施設を脱出した信者たちがこちらに気が付き、ぞろぞろと襲いかかって来る!

 

シルヴィーは車のトランクから、ガスガンのアサルトライフルを取り出して、祝別された銀の弾を込めた。

 

それをさぁやが受け取った。

 

「消えろや!。」

 

さぁやの背中が光ると、全身に電気が走ったように、パチパチと紫の光が現れる。

 

トリガーが引かれると、弾が風を切る音が鳴り、肉がはち切れるような音を立てて、竜の教団の信者の頭部に刺さった。

 

痛みはないらしく、信者たちはそのままこちらに迫って来る。

 

さぁやは静かに微笑むと、信者たちに電気が走り、しびれてのたうち回り、高周波を受けたように破裂した。

 

さぁやは笑って言った。

 

「しびれたやろ?。」

 

怖っ…

 

シルヴィーはレーダーを車のトランクから展開して電波を信者たちに照射した。

 

彼らにとって、もっともストレスになる波帯を探している様子だった。

 

車に乗り込み、頭を抱える信者たちを次々と跳ねて踏みつけていた。

 

聖書のイブの末裔が蛇の頭を砕くと言う記述の再現のようだった。

 

息絶えた信者は、小さな蛇の姿となって、うつろな目で横たわっていた、その体には必ず後ろ足があり、今まで食べた人間の命を吐き出すよかのように口を開けていた。

 

愛花さんが植物の種を撒き散らすと、蛇の体が朽ちて、草木の栄養となって消えて行った。

 

教団の施設をぼろぼろにしたところで、焼け残った生命の樹の偽物が見えた。

 

人の命を実験に使い、不老不死の実現を目指したものだ。

 

アキはそれを見ると天の太陽に手を伸ばし、火の鳥の扇を手にとった。

 

扇はばらばらに散ると、剣の形に連なる

 

アキがそれを木に突き刺すと、勢いよく燃え上がった。

 

アキは安堵して言った。

 

「終わったな…奴が来る頃だろう。」

 

生命の木の偽物を焼かれた事で奴が来る、あの少年の姿をしたサタン。

 

私達の力を狙う、運命の聖痕の賜物をもつサタン…。

 

背後から声が聞こえた。

「そろそろ君たちの力も尽きるかな…。」

 

来た、あの美少年だ!

 

直接に人の魂を吸い取る、天使の力を奪った蛇…。

 

この時代の悪と戦いの黒幕!原始のサタン…!

 

蛇の様にぬるりと、そして鳥のようにすばやく、天使の羽と蛇の尾を持った少年が現れた。

 

その気味悪く、美しくもある姿は、堕天使ルシフェルそのものと言っても良かった。

 

輝きを持ちながら、魔性の息も持っている。

 

神と人と悪魔の間、この世とあの世と間にいるような、人を超えた存在だ。

 

本能が私に逃げろと言っている……。

 

私はあれにきっと勝てない、きっと…。

 

食われて力を奪われる、賜物と聖痕の力の中で一番目立たなく一番強い運命を操る力と、地上の生き物の中で最もたくましい蛇の肉体を持っている…。

 

だ、だめだ…もうだめだ…。

 

命乞いをして、私も竜の教団の一員になれば助かるのか…。

 

どうする、どうしたら良い…。

 

さぁやがガスガンに雷の力を送り、彼を撃った。

 

しかし銃弾は何発撃ってもそれる。

 

彼は笑って言った。

 

「雷か…悪くはないけど、僕の運命を操る力には及ばない、立派に育った力、抱くとしよう。」

 

力を…奪う?

 

少年は、さぁやを牙で噛んで気絶させると、血をごくごくと飲み始めた。

 

さぁやの顔が青ざめると、少年はさぁやを抱えたまま、蛇の尻尾で飛び上がり、天使の羽で羽ばたきながら、さぁやを地面に放り捨てて、雷を指に掲げた。

 

「君たちの運命は僕が全部操っていたんだよ、頃合いをみて全員を竜に変えようと思っていたんだよ…どうだい、僕のシナリオは面白かったか?君たちが育てた力は全部僕がもらう、そして竜たちを率いて、もう一度天に戦いを仕掛ける…そして僕が神にとって変わるんだ、この最高位の天使、ルシフェルがね!。」 

 

なんてことを!私達の運命は全て、あいつに…ルシフェルに操られていたのか!

 

全部…今までのことは全部。

 

さぁや…死ぬな、竜にもなるな!さぁや…。

 

血を吸われて瀕死のさぁやは笑い転げていた。

 

「神などいない…神など…ははは、この世は…この世は…蛇の持つ生命だけが…は、はは…。」

 

さぁやが竜になる前に、この戦いを終わらせないと…。

 

シルヴィーが祈祷書をめくり早口で片っ端から祈りを唱えながら、高周波をルシフェルに浴びせる。

 

ルシフェルはシルヴィーを感情の無い目で見つめる。

 

死ぬ前に日本の殉教を尊ぶ隠れキリシタンはこんな様子だったかのように思う。

 

ルシフェルはシルヴィーの祈祷書の、太陽と月とX字の聖アンデレ十字、隠れキリシタンのシンボルを見ると不機嫌な顔をした。

 

邪教だな。」

 

確かに隠れキリシタンは土着の信仰と混同していたらしいけど邪教と切って捨てる。

 

堕天使は彼らを迫害した幕府と同等に邪悪だ…。

 

私は消えかけた月に手を伸ばす。

 

「Satellites, reflets!(衛星、反射!)。」

 

月の光、私の命のすべてを使って

 

こいつを止める力を!

 

私の掌から光が溢れて、ルシフェルに突き刺さるように伸びる。

 

アキも登りかけの太陽に手を伸ばし、命を削って剣に手をかけてルシフェルに光線を放つ。

 

私のもとにもアキと同じ様に機械の鳥が降り立って扇の姿に変わった。

 

そうか、月は太陽の力を映している。

 

アキの力が高まると、私の力も高まる。

 

命の危険を感じるシルヴィーは目を泳がせてひたすらに祈り、さぁやは竜になりかけてのたうち、愛花さんは賜物と聖痕の力で植物を生み出して蔦を絡ませ、さぁやを押さえつけていた。

 

絶対絶命だ…。

 

私達は死に、黙示録の到来が早まる…。

 

もう終わりか…。

 

シルヴィーの祈祷書がちぎれて風に舞い上がり、月と太陽と聖アンデレ十字の絵が風に舞うのが見えた。

 

月…太陽…聖アンデレ十字…ギリシャ語でXはキリストの頭文字。

 

シルヴィーの言うX反応!

 

シルヴィーの言うD...Dragon,(竜)Dinosaure,(恐竜)Diable,(悪魔)Destin(運命)…。

 

アキが言った。

 

「いつもの祈りはどうした?。」

 

アキも同時に同じことを思ったらしい。

 

私は唱える。

 

「Dans le jarden mon pére…Il y a toujours le soleil, la lune et la croix, c'est tout sur l'inconnu X。」

 

(私の父の庭で、月と太陽と十字架はいつもある、それが未知のXだ)

アキも祈りを合わせる!

 

「Dragon, dinosaure, diable, destin。」

 

二人は同時に言った。

 

アキと私の心が重なる。

 

「Détruisez le mal avec le pouvoir du saint!。」

 

聖なる力で悪よ滅びろ!

 

私のもつ扇がアキのものと同じ様に剣の形になる…。

 

私とアキは飛び上がってルシフェルに同時に斬りかかり、剣でX字を描いた。

ルシフェルがうめき声を上げて苦しむ。

 

「私が負ける…たかが、たかが人間に…最高位の天使が、最高位の天使がなぜ…なぜだ、私は、私は世界の支配者…。」

 

ルシフェルから翼と蛇の尾が切り落とされて地に落ちた。

 

シルヴィーは錯乱しながら、それを車で跳ねた。

 

その時目の前が青白く光り、ツバサくんが現れて、周囲に浮かぶ光、蛍のように小さな光、教団の犠牲者の命の光を手に取り、天へと登っていった。

 

まっすぐまっすぐに登っていった。

 

終わったのか…、さぁや、さぁやは…愛花さんが首を横に振っている。

 

さぁや…?

 

さぁやは一匹の蛇になっていた、小さな蛇になっていた。

 

それは色と模様からして毒蛇だった。

 

モンペール、なぜ…。

 

なぜですか…。

 

どうしてこんな仕打ちを。

 

勝ったと思った、仲間を失った。

 

そうだ、あれはさぁやだった。

 

でも、もう、さぁやじゃない。

 

いっそ手にかければ、聖書の通り頭さえ砕いてしまえば…戦いは終わる。

 

私に出来るのか、アキがやるのか…。

 

ふと声が聞こえた、女の人の声だ

 

愛花さんじゃない、誰だ…。

 

「どうして見えるものしか信じないのですか…。」

 

見えるのも、見えないもの。

 

誰かがささやく。

 

「あなた達はずっと前も、目に見えるものしか信じず、運命の賜物を見逃して、それを蛇に奪われた…。」

 

そうだ、私達は、人間はいつも愚かで、命と希望を何度も蛇に、サタンに騙されて奪われる。

 

ささやきが聞こえた。

 

「探しなさい…。」

 

探す、何を…運命の賜物、そうか、ルシフェルの水晶!

 

戦いの最後に勝ったものを願いを叶える水晶。

 

何度も繰り返す戦いの最後でいつも、願いを叶えるルシフェルの水晶!

 

私はかつてそれで破壊の天使エクリプスの力を自分のものとした…。

 

エクリプス…陰…。

 

Eclipse!  Montrez l'ombre d'un cristal miracle!。」

 

エクリプス、奇跡の水晶の影を見せて!

 

朝日に照らされた見えづらい透明な水晶の影、見せて、エクリプス!

 

そして、カランと言う音がした。

 

シルヴィーが車で何度もルシフェルをはねているうちに、石を引っ掛けたような音がした。

 

あれだ、私はそれをすかさず拾い上げた。

 

小さな水晶を拾い上げて、私は願った。

 

「Dieu, guéris ceux qui ont été blessés dans cette bataille.。」

 

モンペ,―ルこの戦いで傷ついた人たちを癒してください、そして犠牲の魂を御元へ。

 

疲れた…意識が遠のく、私は倒れたらしい。世界が横向きに見える…。

 

 

目を覚ますと自宅のベッドの上だった。

 

何もかも夢だった気がする、これまでの戦いも聖痕の賜物の力もエクリプスも竜の教団も。

 

まるで夢だったかのような気がしている。

 

体がひどく重たい、私はどのくらい眠っていたんだろう。

 

カレンダーを見ると、まる二日が過ぎていた。

 

目が覚めるとリビングにでるとお母さんが、心配と安堵でいっぱいの様子だった。

 

テレビをつけると驚いた、竜の教団の事がテレビでニュースになっている。

 

地方のカルト教団施設でテロ、女子高生を誘拐、生贄の計画か…

 

なんてことだ…。

 

母が言うには私が目覚める前、何度も警察が家に来ていたとの事だった。

 

 

体力が回復して学校にいくと何もかも元通りで、さぁやも人間に戻っていた。

 

シルヴィーの様子も冷静で、アキもいつもどおり寝ぼけていて、愛花さんは何時も通り優しいけど厳しくて、みーちゃんはかわいいけど臆病だった。

 

それから学園の車には傷が随分と増えていた。

 

放課後、オカルト研の部室にみんなが集まると、それぞれ安堵した。

 

夢じゃなかった、夢じゃなかった。

 

私達は人知れず、悪と戦い抜いたんだ。

 

 

月日は流れ、卒業の日。

 

実感のないままもう卒業で楽しかった事を思い出すとなんだか悲しくなりそうだ。

 

私とアキとシルヴィーとさぁやはバカみたいにひたすらにはしゃいでいた。

 

これで私の学園生活も終わり。

 

寂しい、寂しいけど時は過ぎていって、子どもは大人になって、大人は老けていく。

 

時間は残酷で、美しくて、太陽と月は巡り巡って神様もそこにいて。

 

卒業写真の撮影が終わり、最後の下校の道をアキと歩く、おそろいの制服もこれで最後だ。

 

私はアキに言った。

 

「結婚しよう。」

アキは空を十五秒ほど見て言った。

 

「養ってくれ、なんて言わないぞ。」

 

アキは微笑んで私の肩に右手を添え口づけをした。

 

後ろからシルヴィーがカメラ片手に駆け寄って来た。

 

「撮りましたよ!。」

 

みーちゃんも来て言った。

 

「予言するよ、未来は明るい。」

 

愛花さんも来て言った。

 

「あーあー…もう知らない。」

 

さぁやも言った。

 

「しびれたわ。」

 

目の前が青白く光る、風の天使、ツバサくんが現れた。

 

「卒業おめでとう!これからもぼくは、君たちに追い風を送り続けるよ。」

 

ツバサくん…ん、足音が聞こえる。

 

アキの事を好きだった生徒たちが追い駆けてくる!?

 

私はアキの手を引いて言った。

 

「走るよ!二人で逃げるぞ!。」

 

私とアキが走り始めると、どこからか声が聞こえてくる…。

 

「運命の賜物を見つけたようですね。」

 

あの時、ルシフェルを倒して水晶を探す時に聞こえた声だ。

 

私を導く、誰かの声だ。

 

その声が誰だったのかはわからない

 

マドンナ・マリー?マリア様だろうか…。

 

誰でもいいや、ただ私はきっと運命の賜物を見つけたんだ、きっと。

 

少なくとも今は、今は…。

 

Dans les jardins d'mon père Les lilas sont fleuris

 

Dans les jardins d'mon père Les lilas sont fleuris

 

Tous les oiseaux du monde Viennent y faire leurs nids

 

Auprès de ma blonde Qu'il fait bon, fait bon, fait bon

 

Auprès de ma blonde Qu'il fait bon dormir.

 

la fin.

 

Je vous remercie!